まんきき35号『ワンダンス』珈琲先生インタビュー

自分の気持ちを抑えて、周りに合わせて生活している小谷花木(こたに かぼく)。そんな彼が惹かれたのは、人目を気にせずダンスに没頭する湾田光莉(わんだ ひかり)。彼女と一緒に踊るために、未経験のダンスに挑む! 部活、勉強、就職、友達、恋愛。必要なことって何?無駄なことやってどうなるの?いやいや、君の青春は、自由に踊って全然いいんだ。2人が挑むフリースタイルなダンスと恋!

ダンスってなんだ?
なんかカッコよさそうだけど、これまで全く縁がなかった。
でもこのマンガのダンスシーンがすごくカッコいいことは分かる。
なんでだろう。
先生自身が10代の頃やり込み、しかし挫折してしまったダンス。
当時悩んだこと、あの時手に入らなかったもの、今なら分かること。
自らの人生をギュウギュウに詰め込まれた”具体的な”物語だから熱量が伝わってくる。

今回のまんききは「アフタヌーン」で『ワンダンス』を連載中の珈琲先生にインタビュー。いま一番「動いてる」マンガを楽しもう。

作品の試し読みはこちら!

――― 2巻の発売を楽しみにしていました。物語は高校生である主人公・カボくんが同級生の女子・ワンダさんの踊る姿に感化され、ダンス部に入部するところから始まります。今作でダンスを題材にしようと思った理由はどんなところにあるのでしょうか。
10代のときにダンスをやっていて、それから挫折して10年ほど離れてみて「あの時行き詰ったのはこういうことかもしれないな」と気付いたことを昇華するためにダンスを題材にしました。ちょっと難しい題材とか誰もやってないジャンルとかが好きな癖があるので、そこに寄っていった感じもあります。
――― 先生がダンスを始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
昔から人と一緒のことをやるのがイヤで、周りがハマってるものには一切手を出さなかったんです。田舎の学校だとダンスをやってる人が一人もいないことに気付いて。最初ブレイキンから入ろうと始めたのですが、ウィンドミルという床で回転する技を練習してるとき廊下の硬い床に腰を強打して痛すぎてすぐに辞めました。そこからはロッキンやポッピンなど立ち踊りのジャンルにいきました。
――― プロデビュー以前から今作の構想はあったのでしょうか。
『ワンダンス』自体は全く頭に無かったんですが、登場するキャラクターについては『のぼる小寺さん』からスライドしてる部分が結構あります。主人公・カボくんが吃音症であるということも描くつもりはなかった設定です。しかし吃音症のことも、他になかなか経験してる人がいないので(※) 漫画の題材としてアリかなと思い使うことにしました。
自分自身がダンスをやってたときは「ストリートダンスの漫画があったらいいのに、何でないんだろうか」と思っていましたが、実際取り組んでみるとどこで面白さを感じさせるか難しく感じています。
※先生ご自身が吃音症でもあります。詳細はこちらのインタビュー記事でも。
https://friday.kodansha.co.jp/article/60371
――― 今作でまさに難しいなと感じているのはどういったところですか?
ダンス自体のカッコよさを感じさせるのなら、当然マンガで読むより実際にダンスを見に行ったほうが早いので、漫画で描く以上はダンス以外の何かしらの要素が要るんですよね。ダンスの見方とか、おもしろポイントとか、雑学を執拗に描いても、そこに読者の興味がなければそこは流されてしまう場所になってしまうのかなと思います。その知識が読者にとってなにか生活の役に立つとか、軽い話のネタになるとか、なにか自分と関連付いてないと面白さにはならないんだなという、考えてみれば当たり前のことに最近まで気付いてませんでした。なので今後はダンス以外のなにか恋愛なりバトルなりの軸を作中で確立して行かないとなと思っています。
――― 「マンガなのに音が聞こえるかのよう」というところがこの作品のすごいところだと感じています。この点なくして「ダンスを描く」というのは難しいと思うのですが、ダンスや音の表現について工夫したのはどんなところなのでしょうか。
各々の読者の方に想像してもらわないと成り立たないところなので、スピーカーの絵やドラムの絵などを挟んで「ぜひ想像してください」とお願いするような仕掛けを入れています。最近は「ドラムスティックを振り上げるコマ」→「ダンサーが跳ねる動きのコマ」の流れで動きと同時にドラム音が想像できるんじゃないかと思って取り入れています。
――― 12月号のダンスシーンは怒涛の一言でした(3巻収録予定10話)。ダンス中のポージングについて、私も表現が難しいのですが「リアルなポーズ」であることと同時に「マンガとしての振り切り」も必要なところのバランスはどのように考えて描かれたのでしょうか。
当初は、リアルな可動域とかリーチの長さとかが大事だと思い込んでたのですが、実写と同じように描いても漫画だと硬い印象になるんですよね。何でだろうかと考えてみたところ、おそらく顔をはじめ人間のパーツはデフォルメして描いているのに、動きをデフォルメしないのが不自然だからなんじゃないかなと。
それに加えて描写面では、たとえば「胸を思いっきり膨らませる」もしくは「胸をおもいっきりへこませる」を最近のダンスシーン描写で意識しています。実際のダンスの上手さの一つとして「首、胸、腰などの体幹部分が自由自在に動く」ということがあります。体幹でリズムを取れる人がダンスが上手いということなのですが、この部分をきちんと描写してみることがケレン味なように見えて、意外と実はリアリティに繋がっているのかもと感じています。最初はこういった動作をあまり描けていなかったので後悔もあるのですが、主人公たちも初心者からのスタートだったので「初心者っぽさ」の表現としてかえって良かったのかもと思っています。
――― この話ではコンクールというイベントの熱気が上り詰めていて、カボくんとワンダさんがひとつ到達したという印象を受けています。この先にはどんな展開を考えておられるのでしょうか。
僕はダンスバトルという文化が好きなので、そちらに行きたいと思っています。漫画としてもわかりやすいし。連載開始時からいきなりダンスバトルをやってしまうと、まずダンスって何なの?ってとこで読者がついてこれない気がしたので、下地を積み重ねてようやく準備が整ったと思っています。(後は連載が終わらないことを祈るばかり)
――― 先生の描く女の子が可愛くて好きです。今作はたくさんの女性キャラクターが用意されているなか(1巻P118,119)、特に中心として登場するワンダさんの造形でこだわったところはどんな点なのでしょうか。
造形に特別感を出すため、別のキャラクターと同じ画面にいるときはなるべくワンダさんが一番頭が小さくなるように気をつけています。
――― この見開きページに登場した部員の面々ですが、全員の設定が決まっているのでしょうか?
現時点では何人かしか決まっていません。出てきたときの表情や立ち位置から性格などを想像して、出番があるときはその通りにしてみたり、あえて逆にしてみたりしながら登場させています。実際に部活に入った時と同じように、ちょっとずつ名前や性格を知っていくことで思っていたのと違う子だなあと驚いたりとか、良いように解釈してもらえれば。

部員勢揃い

――― これだけの人数の顔やお名前を全力で作っておられてすごいと感じました。どのようにお考えになったのでしょうか。
あの見開きは担当編集のアイデアで、「狂気じみたことをやろう」と。デザインはファッションのサイトやインスタなどを見まくって髪型や服装などをストックしました。名前は、下の名前はちょっと変だけど可愛いみたいな名前をひねり出して、名字は普通の苗字や関西の地名などを語感で使っています。名前を決める作業は地味に好きです。
――― カボくんとワンダさんが所属している人数のダンス部というのは、2019年現在では大規模な方に入るのでしょうか(我々の学生時代はダンス部は珍しいものだったなと思い出しています)
自分のときもダンス部はほとんどなかったと思います。現在だと40人くらいは比較的少人数の部類に入ると思います。大所帯のところだと100人越えも平気であります。ダンス部目当てで高校を選ぶ子も普通にいるみたいです。
――― 今作ではカボくんからワンダさんへの恋心(?)が早い段階で描かれていて、ワンダさんを目で追ってしまう感じに乗り移ってしまいこちらもドキドキしています。作者である先生はカボくんに対してどんなイメージをお持ちですか?
高校1年生としてはめちゃくちゃ出来た人間だなと思います。僕には出来ないような、つまりこうすれば対人関係は上手くいってたんだろうなというような行動をしてると思います。ただ、大人ぶってるところがあるので、この先もっとストレートな欲求や人間味が出てくるかもなという気はしています。
――― カボくんについてのイメージを聞くことができ嬉しいです!序盤のご回答で「キャラクターのスライド」という言葉もありましたが、ヒロインのワンダさんに前作の小寺さんと共通するところを感じています(自分のやりたいこと、進路について真っ直ぐなところとか)。一読者として非常に好きなヒロイン二人なのですが、このヒロイン像も先生にとってすごく意味のある存在なのでしょうか。
ある種自分の中で究極のヒロイン像といいますか、絶対好きになると思います。よくいろんな所で言っているんですが「もし学生時代にこういう子がいたら人生変わったかもしれない子」という発想のもと、『のぼる小寺さん』のときは一問一答のように、このシチュエーションだったらどうリアクションするか?を毎回考えて肉付けしていって『ワンダンス』は実際にそのヒロインがどうのぼっていくかという話になっています。
――― ワンダさん以外に気に入っている女性キャラクターはありますか?
恩ちゃんは行動が描きやすいし、地味に読者人気もあるので良いキャラクターだなと思います。あと恩ちゃんと同じクラスの常盤らめという子が、今のところほぼセリフも無いのですがビジュアルがなんか好きでモブにいる率が高いです。
――― これまでダンスには全く触れてこなかったのですが、『ワンダンス』を読んでダンスの動画を見たり、ちょっと真似したりしてみることに気が向くようになりました。ダンスの入門という点でオススメの資料などあればぜひ教えてください。
ダンス講座ということでしたら、YouTubeにプロダンサーが無料で教えてる動画がたくさんあります。ちょっとガチ寄りだと、有名なのはRising Dance School。様々なジャンルをかなり初歩から教えてくれるのでわかりやすいかも。あと海外のRed Bull Dance Connectというチャンネルが、教えてるダンサー陣がガチすぎるわりに何故かあんまり知られてなくて不思議です。
――― 部長(恩ちゃん)のダンス指導もすごくわかりやすいですよね。こういった理論的な部分は先生ご自身の体験から来たものなのでしょうか。
僕自身が、ダンスをやっててつまずいてた部分を、時間が経ってから「こういうことだったのか」と気付いたことを説明しています。過去の自分に向けていたりもしますね。特に早取り問題はダンサーとしてかなり多くの人が悩む問題なので説明に力を入れました。
――― マンガを描く上で影響を受けた作品はありますか(マンガに限らず小説や作品論等も含めて)
1話は海外ドラマの『GREE』をかなり観ました。絵を描く上でずっと影響をうけてるのは中村明日美子先生の漫画です。
――― 絵柄においては中村明日美子先生と聞いて非常に納得するところがありました。実際に絵、そしてマンガを描かれる方から見たその魅力や、なかなか真似できないと感じるところはどういったところだと思われますか?
細くて少ない線なので、センスがモロに出てしまうところ。手数の少なさは実力ですよね。僕は描きこみと物量、例えばダンスシーンなら服のシワや逆光、謎のチリなどで押し切っています。
――― 先生がマンガを描きはじめたのはいつ頃だったのでしょうか
「おそらく僕がダンスで食ってくのは無理だな」と感じた19歳ごろです。
――― その頃、反対に「ダンスで食っていける」としたらどういったキャリアが考えられたのでしょうか。挫折というワードをご回答でいただきましたが、もし可能でしたらどんなギャップを感じておられたのかお伺いしたいです。
大阪は日本でもトップクラスに強いダンサーが集まってる街なのですが、地元でそこそこ踊れてるレベルでは、田舎から大阪に出てきたときに全く通用しなかったこと、また大阪で自分のいたコミュニティの中で一番上手かった子ですらダンスじゃない道に進んでることなどもあり、ギャップを感じました。もしダンスの方に行ってたら、ダンスインストラクターをやりつつバックダンサーをやったり定期的に自分のショーなどをやる、典型的なダンサーになってたかもしれません。当時はそういうケースしか知らなかったので。今はYouTubeやTikTokで個人的に発信して、ダンサー以外の方に刺さって売れる、みたいなパターンもよく見ますし、ダンサーの稼ぎ方に決まりは無いと感じることがあり、当時は視野が狭かったなと思います。
――― ダンスとマンガの両方に取り組んでいた時期があったのかなと思いますが、特にマンガについて上達していく感触みたいなものはどんな感じのものだったのでしょうか。
10代のときほぼダンスが無理だと感じたときには、もう漫画を上手くなるしかないと思ってたので、上手くなっていく喜びよりもあとに引けない必死さのほうが強かったです。実際に上達してるかもな、と感じたのはようやくここ1~2年くらいです。
――― 10代の頃、他ならぬマンガに挑戦しようと思えたのは何故だったのでしょうか。すごく読まれていたとか、絵が得意だったとか・・・?
基本的に何も褒められてこなかったのですが絵だけにはそこまで苦手意識が無かった気がします。覚えてるのは・・・、たぶん10歳くらいの時にテレビでちらっと映ったキャラクターを記憶だけでそのまま描き起こしたら「すげえな!」とリアクションがあって。そういう反応をされるのが珍しかったのでやけに覚えています。あとは単純にやっぱり読むのは好きでしたね。『六三四の剣』(村上もとか/小学館/週刊少年サンデー) や『拳児』(原作:松田隆智,作画:藤原芳秀/小学館/週刊少年サンデー) 、『SLAM DUNK』(井上雄彦/集英社/週刊少年ジャンプ) や『るろうに剣心』(和月伸宏/集英社/週刊少年ジャンプ) など。小学生のころはスポーツやアクション系が多くて、高校生あたりから『AQUA』(天野こずえ/スクウェア・エニックス/月刊ステンシル→マッグガーデン/コミックブレイド) や『苺ましまろ』(ばらスィー/KADOKAWA/電撃大王)などの癒し、萌え系にシフトしていきました。『AQUA』を読んだ時は「俺は絶対にこういう漫画が描きたい」と思ったのに、そういえば今のところ全然描けていませんね。
――― カラー頁の雰囲気が素敵です。マンガの制作は全てデジタル環境なのでしょうか。
漫画は今までは下描きまで原稿用紙にシャーペンで描いて、スキャナで取り込んでから液晶タブレットでペン入れというやり方でしたが最近は結構下描きからデジタルでやったりもします。家だとあまり集中出来ないのでコワーキングスペースに液晶タブレットを持っていって描いていますが液タブが壊れかけてるので最近iPad Proを導入してみました。カラーに関してはよく「塗り方が変わった」と感想をいただくるのですが、実はカラー作業をする間隔が空いてしまうので、毎回どうやって塗っていたか忘れているのです。
――― 家で先生の集中を妨げているものはなんですか?
猫とベッド。騒がしすぎない程度に人の気配があったほうが集中しやすいですね。今のところiPad Proにぜんぜん慣れないので最近は家での作業が多いです。猫は2歳のミヌエット、オスです。
――― いま読者として熱を上げているマンガはありますか。
単行本が出た瞬間買うのは島本和彦先生の『アオイホノオ』(小学館/ゲッサン)、船戸明里先生の『Under the Rose』(幻冬舎コミックス)です。
――― 書店員が沸き立つチョイスですね。先生はそれぞれどんなところに着目されていますか?
『アオイホノオ』は当時をリアルタイムで体験してた世代の、当時の熱量(もしかしたら当時以上かも)で描かれるオタク文化と、その地続きのところにいま自分がいるのだなと知ることができるのが嬉しいですね。『Under the Rose』は読み返すたびに違う解釈が生まれます。群像劇の面白さ、描写のしかた全てにおいて上手いと思う作品で、おそらく読み返した回数はダントツだと思います。『Under the Rose』にそんなリアクションをいただけて僕も嬉しいです。
――― 誰もやっていないジャンルがお好きとの事でしたが、いま興味が芽生えつつあるジャンルはありますか?
一つはコワーキングスペースもの。普段交わらない職種の人たちが交流したり、自営業の珍しい職種の人たちが多くて面白いなと自分も通うようになって思ったので。もうひとつはストーカー系のホラーもの。ストーカーされる側の怖さなどを描くホラー映画が好きでいつか挑戦したいと思っています。
――― 最後になりますが、これから『ワンダンス』に触れる読者の方に一言お願いいたします。
ダンスという題材に対して拒絶感を持ってしまう方もいると思うのですが、それはそのまま持ってきてもらっても大丈夫です。決して「ダンスを好きだと言わせてやる!」みたいなスタンスの漫画ではないので、気軽に読んでみてください。
珈琲先生、ありがとうございました!
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