まんきき36号『紛争でしたら八田まで』田素弘先生インタビュー

海外のことがちょっと楽しくなる新連載! 民族、言語、思想。違えばやっぱり、事件は起きる。住む場所変われば、起きる事件も、もちろん変化! それを眼鏡美人・八田百合、チセイ(と荒技)で東南アジアの民族問題、アフリカで起きる恐ろしい事件、ヨーロッパで起きる企業問題を解決!? 荒み疲れ果てた世界を、彼女が救う…!!

第三次世界大戦一歩手前になったイラン情勢、拡がるコロナウィルス
2020年、世界は一体どうなっちゃうの?
そんな時代に僕たちが頼るべきものは・・・チセイ!
知性ひとつで世界を股にかける”八田百合”、こんなにカッコいいキャラがどのようにして生まれたのだろう。田素弘先生に八田の魅力、そして作品づくりのことをインタビュー!

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――― 早速ですが、書店員全員が惚れ込んだ主人公・八田の魅力についてお伺いしたいです!世界の紛争地帯を股にかけ、知性で渡り合う。そんな超カッコいい、でも時にコミカルな八田女史ですが、どんなきっかけで生まれた主人公なんでしょうか。
最初に、担当編集より「世界を舞台にした話が欲しい」と要望がありました。そこで「地政学に通じたリスクコンサルタントが、世界各地で紛争解決する」という設定を作りました。ミャンマー編のストーリーも早々にできていたんですが、主人公の人物像がずっと未確定でした。人物像は連載決定後も変化を続け、半年以上の試行錯誤を経て現在の八田百合になりました。
――― 先生の中で彼女がバシッとハマったと感じたのはどんなときだったのでしょうか。八田が女性として出てきたこともすごく楽しい驚きでした。
高い知性を持つ人物という設定上、制作初期の八田は超然としたとっつきにくい人物でした。様々な一話冒頭を試しましたが、うまくいかず、子供と会話するシーンを描いた時初めて、八田が饒舌になり始めました。八田には大量の知識が詰め込まれていますが、精神年齢は子供と近いようです。アンバランスな部分を見つけて以降、八田がイキイキし始めました。八田の性格決定までは紆余曲折ありましたが、容姿は最初からほぼ変化がありません。「どんな場所でも浮く人物」というコンセプトが常にあり、危険地帯が舞台になるこの話では、清楚な女性である事は必然でした。
――― 毎話気になる服装や、ここぞで飛び出すプロレス技などすごく個性的な八田ですが、先生からはどんなキャラクターに見えていますか。
八田百合は、彼女なりの常識に従い合理的に行動しています。ただ、その常識は世界各地の価値観が複雑に混ざった物で、はたから見ると個性的に写るかもしれません。
――― 世界各地の紛争という、一筋縄ではいかないテーマを扱っている作品です。世界情勢への興味や調査はどのようにされているのでしょうか。
専門的に勉強した事はありませんが、昔から政治や宗教の本が好きでした。調査方法はごく一般的です。調査場所と期間を決め、書籍・インターネットで情報を集め、情報整理しながら要点を掴み、物語を構築する、そんな感じです。
――― 担当編集さんとの打ち合わせではどんなことをお話されていますか?
漫画の性質上、私が情報整理に忙殺されて、人物描写が淡々となる事が多々あります。その為、担当編集から、キャラクター描写や演出の強弱を中心に提案をもらいます。特に八田百合の挙動に気を使ってもらっています。
――― 八田が行くミャンマーやタンザニアでの日常シーン、特に現地の見慣れぬ食事の描写にこだわりを感じています。(取材で実食なども・・・?)
ユリはジャンクフードやゲテモノ料理をよく食べます。健全と言えなさそうなそれらの料理に“活力”を感じています。読んだ方が、恐る恐る注文するような事があればいいな、と考えながら描いています。東京在住なので、実食は割とできます。
――― 先生を構成しているもの(趣味や好きなもの) を3つ挙げるとしたらなんですか?
読書 映画 音楽
――― 作中によく聞いている音楽はありますか?
幅広く聴くので回答が難しいですが、最近でいえばDirty Beaches, Warpaint, The midnightをよく聴いています。昔からでいえばMorrissey, Pj harvey, Thom yorkeなど。
――― 作中のみならず音楽のご趣味からも英国を感じます。特に愛着がある、というところなのでしょうか。
20代の頃、何の考えも無くイギリスに行って、何するでもなく半年程滞在しました。暗い空気感が性に合いました。
――― プロフィールを拝見すると「アパレル、広告、webデザイン・ディレクション業を経て30代後半で脱サラ。初連載『紛争でしたら八田まで』を43歳で開始。」と、色々な経験をされてからのデビューに大変驚きました。マンガを志すきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
職種は色々ありますが、すべてデザインに関わる仕事でした。制作が好きだったのですが、年齢が上がり管理職になり、そこから先のキャリアに全く興味が持てませんでした。制作を続けられて、デザインや絵の能力が生かせて、商売になっていそうな業種を考えた時、漫画という回答に至りました。
――― マンガにおいて「デザイン」面で活かせた視点や経験にはどういったものがありますか?
構図やレイアウトなど、「絵作り」で苦しむ事がありません。修正が入っても、より良い方向で提案ができます。制作過程で最も楽しめる時間です。
――― 読者として今作の絵も楽しんでいたので、ご回答になるほどと思いました。1巻に収録された話の中で先生が手応えを感じた箇所があれば教えてください。
「あんたのベットに入ってあげる」の箇所です。一話目は何度も修正を繰り返しましたが、無傷で残った数少ないシーンです。八田らしさが良く出たと感じています。
――― デビュー読み切り作『定時退社でライフルシュート』の掲載から今作の連載まで4年弱の時間がありましたが、この間はどんな準備をされていたのでしょうか。
バイトしながら様々なネームを作っていましたが、全くうまくいきませんでした。困り果てた前編集者が現編集者をサポートに加え、『紛争でしたら~』が生まれました。『紛争でしたら~』は初稿から掲載まで一年程かかっています。
――― 週刊連載という密度の高い〆切は大変ではないでしょうか。いま現在はどんなスケジュールで取り組まれているのでしょうか
基本、極限状態です。スケジュールの基本方針は、「1章分(ミャンマー編など) のネームを作る→1章分の原稿制作をする→休載を入れて次の章のネームを作る」という方針です。ただし、連載間もない現在のスケジュールは流動的です。
――― Q,先生がこれまでにハマってきたマンガ作品を教えて下さい!(同い年ぐらいの人間としては『勇午』を思い出しながら楽しんでいます!(子供の頃、青年期、大人になってからとお伺いできると嬉しいです)
それほど熱心な漫画読者ではありませんでしたが・・・
【子供】
『THE MOMOTAROH』(にわのまこと/集英社)
『魁!!男塾』(宮下あきら/集英社)
『有閑倶楽部』(一条ゆかり/集英社)
『マーガレットとご主人の底抜け珍道中』(坂田靖子/プチフラワー)

【青年期】
『美味しんぼ』(雁屋哲・花咲アキラ/小学館)
『ぷりぷり県』(吉田戦車/小学館)
『動物のお医者さん』(佐々木倫子/白泉社)
『ゲゲゲの鬼太郎』(水木しげる/講談社)
『ヘルボーイ』(マイク・ミニョーラ/小学館プロダクション)

【大人】
海外コミック全般

――― 海外コミック全般にハマった、ということでしたがどういった経路を辿られたのでしょうか (私どももほとんど国内のコミックばかり扱っており学びたいと思うところです)
情報に詳しい訳では無く、日本と異質な絵に惹かれて、手当たり次第に買います。好みのイラストレーターを探す感覚です。マイク・ミニョーラ(『ヘルボーイ』) の絵を見て衝撃を受けた事がきっかけでした。
――― 先生が作品作りに影響を受けたと感じるマンガはありますか?
上記したマイク・ミニョーラの『ヘルボーイ』は私の源泉です。どういう訳か社会派物語を作っていますが、私の興味の大半は絵作りにあります。
――― いま読者として熱を上げている連載作品(マンガ)があったら教えてください。
最新情報に疎くてすいませんが、『グラップラー刃牙』と『浦安鉄筋家族』はずっと楽しく読み続けています。
――― はじめて絵を描いたときのことを覚えておられますか?
幼稚園児の頃、違和感を覚えながら亀の絵を書きました。クラス全員の絵が張り出されて、違和感の正体に気づきました。私の亀は手足が異常に長く、何で描きながら気づかなかったのか、その後数年悩みました。
――― 先生は交渉における「武力」の存在をどのように捉えていますか?
「外交において」としますが、交渉の場に立つために必要なものと考えています。
――― 「紛争」とはスケールが異なるかもしれませんが、冷戦についてはどのような私見あるいは当時の感想をお持ちでしょうか。
欲望(民主主義) と理想(社会主義) が戦って、理想が自滅した。という感じでしょうか。因みに、私が世界情勢に興味を持ったきっかけは小室直樹先生の著書『ソビエト帝国の崩壊』を読んだ事がきっかけでした。
――― 昨今の関税戦争、そして今回のCOVID-19と、各国が意図の有無を超えてどんどん閉鎖的になっていく印象を持っています。先生が、今後こんなことが起きそうだな、とぼんやりと感じていることはありますか?
「グローバル=正義」の認識に変化がでたのは僥倖と考えています。自由競争が行き過ぎた結果、格差が開き過ぎました。今は閉鎖的になって自国の利益を考えるのも自然だと思います。今後起きる事は、過去の繰り返しと考えています。基本は「愛国風潮が高まる→軋轢が激しくなる→戦争」。ただし、現代は核があり戦争不可能ですので、紛争の増加とサイバー戦争の激化を予想しています。
――― これからの作品をさらに楽しむにあたって、今のうちにニュースに注目しておくとよい地域があったら教えてください。
まずはアメリカ大統領選でしょうか。その結果で、向こう十数年の世界の未来が決まると考えています。
――― 最後になりますが、はじめて『紛争でしたら八田まで』に触れる読者の方に一言お願いできればと思います。
八田百合と共に、未だ広い世界をのんびりお楽しみください。
田素弘先生、ありがとうございました!
先生のイラスト表紙が目印のまんきき36号の頒布店はこちらで案内しています

まんきき35号『ワンダンス』珈琲先生インタビュー

自分の気持ちを抑えて、周りに合わせて生活している小谷花木(こたに かぼく)。そんな彼が惹かれたのは、人目を気にせずダンスに没頭する湾田光莉(わんだ ひかり)。彼女と一緒に踊るために、未経験のダンスに挑む! 部活、勉強、就職、友達、恋愛。必要なことって何?無駄なことやってどうなるの?いやいや、君の青春は、自由に踊って全然いいんだ。2人が挑むフリースタイルなダンスと恋!

ダンスってなんだ?
なんかカッコよさそうだけど、これまで全く縁がなかった。
でもこのマンガのダンスシーンがすごくカッコいいことは分かる。
なんでだろう。
先生自身が10代の頃やり込み、しかし挫折してしまったダンス。
当時悩んだこと、あの時手に入らなかったもの、今なら分かること。
自らの人生をギュウギュウに詰め込まれた”具体的な”物語だから熱量が伝わってくる。

今回のまんききは「アフタヌーン」で『ワンダンス』を連載中の珈琲先生にインタビュー。いま一番「動いてる」マンガを楽しもう。

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――― 2巻の発売を楽しみにしていました。物語は高校生である主人公・カボくんが同級生の女子・ワンダさんの踊る姿に感化され、ダンス部に入部するところから始まります。今作でダンスを題材にしようと思った理由はどんなところにあるのでしょうか。
10代のときにダンスをやっていて、それから挫折して10年ほど離れてみて「あの時行き詰ったのはこういうことかもしれないな」と気付いたことを昇華するためにダンスを題材にしました。ちょっと難しい題材とか誰もやってないジャンルとかが好きな癖があるので、そこに寄っていった感じもあります。
――― 先生がダンスを始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
昔から人と一緒のことをやるのがイヤで、周りがハマってるものには一切手を出さなかったんです。田舎の学校だとダンスをやってる人が一人もいないことに気付いて。最初ブレイキンから入ろうと始めたのですが、ウィンドミルという床で回転する技を練習してるとき廊下の硬い床に腰を強打して痛すぎてすぐに辞めました。そこからはロッキンやポッピンなど立ち踊りのジャンルにいきました。
――― プロデビュー以前から今作の構想はあったのでしょうか。
『ワンダンス』自体は全く頭に無かったんですが、登場するキャラクターについては『のぼる小寺さん』からスライドしてる部分が結構あります。主人公・カボくんが吃音症であるということも描くつもりはなかった設定です。しかし吃音症のことも、他になかなか経験してる人がいないので(※) 漫画の題材としてアリかなと思い使うことにしました。
自分自身がダンスをやってたときは「ストリートダンスの漫画があったらいいのに、何でないんだろうか」と思っていましたが、実際取り組んでみるとどこで面白さを感じさせるか難しく感じています。
※先生ご自身が吃音症でもあります。詳細はこちらのインタビュー記事でも。
https://friday.kodansha.co.jp/article/60371
――― 今作でまさに難しいなと感じているのはどういったところですか?
ダンス自体のカッコよさを感じさせるのなら、当然マンガで読むより実際にダンスを見に行ったほうが早いので、漫画で描く以上はダンス以外の何かしらの要素が要るんですよね。ダンスの見方とか、おもしろポイントとか、雑学を執拗に描いても、そこに読者の興味がなければそこは流されてしまう場所になってしまうのかなと思います。その知識が読者にとってなにか生活の役に立つとか、軽い話のネタになるとか、なにか自分と関連付いてないと面白さにはならないんだなという、考えてみれば当たり前のことに最近まで気付いてませんでした。なので今後はダンス以外のなにか恋愛なりバトルなりの軸を作中で確立して行かないとなと思っています。
――― 「マンガなのに音が聞こえるかのよう」というところがこの作品のすごいところだと感じています。この点なくして「ダンスを描く」というのは難しいと思うのですが、ダンスや音の表現について工夫したのはどんなところなのでしょうか。
各々の読者の方に想像してもらわないと成り立たないところなので、スピーカーの絵やドラムの絵などを挟んで「ぜひ想像してください」とお願いするような仕掛けを入れています。最近は「ドラムスティックを振り上げるコマ」→「ダンサーが跳ねる動きのコマ」の流れで動きと同時にドラム音が想像できるんじゃないかと思って取り入れています。
――― 12月号のダンスシーンは怒涛の一言でした(3巻収録予定10話)。ダンス中のポージングについて、私も表現が難しいのですが「リアルなポーズ」であることと同時に「マンガとしての振り切り」も必要なところのバランスはどのように考えて描かれたのでしょうか。
当初は、リアルな可動域とかリーチの長さとかが大事だと思い込んでたのですが、実写と同じように描いても漫画だと硬い印象になるんですよね。何でだろうかと考えてみたところ、おそらく顔をはじめ人間のパーツはデフォルメして描いているのに、動きをデフォルメしないのが不自然だからなんじゃないかなと。
それに加えて描写面では、たとえば「胸を思いっきり膨らませる」もしくは「胸をおもいっきりへこませる」を最近のダンスシーン描写で意識しています。実際のダンスの上手さの一つとして「首、胸、腰などの体幹部分が自由自在に動く」ということがあります。体幹でリズムを取れる人がダンスが上手いということなのですが、この部分をきちんと描写してみることがケレン味なように見えて、意外と実はリアリティに繋がっているのかもと感じています。最初はこういった動作をあまり描けていなかったので後悔もあるのですが、主人公たちも初心者からのスタートだったので「初心者っぽさ」の表現としてかえって良かったのかもと思っています。
――― この話ではコンクールというイベントの熱気が上り詰めていて、カボくんとワンダさんがひとつ到達したという印象を受けています。この先にはどんな展開を考えておられるのでしょうか。
僕はダンスバトルという文化が好きなので、そちらに行きたいと思っています。漫画としてもわかりやすいし。連載開始時からいきなりダンスバトルをやってしまうと、まずダンスって何なの?ってとこで読者がついてこれない気がしたので、下地を積み重ねてようやく準備が整ったと思っています。(後は連載が終わらないことを祈るばかり)
――― 先生の描く女の子が可愛くて好きです。今作はたくさんの女性キャラクターが用意されているなか(1巻P118,119)、特に中心として登場するワンダさんの造形でこだわったところはどんな点なのでしょうか。
造形に特別感を出すため、別のキャラクターと同じ画面にいるときはなるべくワンダさんが一番頭が小さくなるように気をつけています。
――― この見開きページに登場した部員の面々ですが、全員の設定が決まっているのでしょうか?
現時点では何人かしか決まっていません。出てきたときの表情や立ち位置から性格などを想像して、出番があるときはその通りにしてみたり、あえて逆にしてみたりしながら登場させています。実際に部活に入った時と同じように、ちょっとずつ名前や性格を知っていくことで思っていたのと違う子だなあと驚いたりとか、良いように解釈してもらえれば。

部員勢揃い

――― これだけの人数の顔やお名前を全力で作っておられてすごいと感じました。どのようにお考えになったのでしょうか。
あの見開きは担当編集のアイデアで、「狂気じみたことをやろう」と。デザインはファッションのサイトやインスタなどを見まくって髪型や服装などをストックしました。名前は、下の名前はちょっと変だけど可愛いみたいな名前をひねり出して、名字は普通の苗字や関西の地名などを語感で使っています。名前を決める作業は地味に好きです。
――― カボくんとワンダさんが所属している人数のダンス部というのは、2019年現在では大規模な方に入るのでしょうか(我々の学生時代はダンス部は珍しいものだったなと思い出しています)
自分のときもダンス部はほとんどなかったと思います。現在だと40人くらいは比較的少人数の部類に入ると思います。大所帯のところだと100人越えも平気であります。ダンス部目当てで高校を選ぶ子も普通にいるみたいです。
――― 今作ではカボくんからワンダさんへの恋心(?)が早い段階で描かれていて、ワンダさんを目で追ってしまう感じに乗り移ってしまいこちらもドキドキしています。作者である先生はカボくんに対してどんなイメージをお持ちですか?
高校1年生としてはめちゃくちゃ出来た人間だなと思います。僕には出来ないような、つまりこうすれば対人関係は上手くいってたんだろうなというような行動をしてると思います。ただ、大人ぶってるところがあるので、この先もっとストレートな欲求や人間味が出てくるかもなという気はしています。
――― カボくんについてのイメージを聞くことができ嬉しいです!序盤のご回答で「キャラクターのスライド」という言葉もありましたが、ヒロインのワンダさんに前作の小寺さんと共通するところを感じています(自分のやりたいこと、進路について真っ直ぐなところとか)。一読者として非常に好きなヒロイン二人なのですが、このヒロイン像も先生にとってすごく意味のある存在なのでしょうか。
ある種自分の中で究極のヒロイン像といいますか、絶対好きになると思います。よくいろんな所で言っているんですが「もし学生時代にこういう子がいたら人生変わったかもしれない子」という発想のもと、『のぼる小寺さん』のときは一問一答のように、このシチュエーションだったらどうリアクションするか?を毎回考えて肉付けしていって『ワンダンス』は実際にそのヒロインがどうのぼっていくかという話になっています。
――― ワンダさん以外に気に入っている女性キャラクターはありますか?
恩ちゃんは行動が描きやすいし、地味に読者人気もあるので良いキャラクターだなと思います。あと恩ちゃんと同じクラスの常盤らめという子が、今のところほぼセリフも無いのですがビジュアルがなんか好きでモブにいる率が高いです。
――― これまでダンスには全く触れてこなかったのですが、『ワンダンス』を読んでダンスの動画を見たり、ちょっと真似したりしてみることに気が向くようになりました。ダンスの入門という点でオススメの資料などあればぜひ教えてください。
ダンス講座ということでしたら、YouTubeにプロダンサーが無料で教えてる動画がたくさんあります。ちょっとガチ寄りだと、有名なのはRising Dance School。様々なジャンルをかなり初歩から教えてくれるのでわかりやすいかも。あと海外のRed Bull Dance Connectというチャンネルが、教えてるダンサー陣がガチすぎるわりに何故かあんまり知られてなくて不思議です。
――― 部長(恩ちゃん)のダンス指導もすごくわかりやすいですよね。こういった理論的な部分は先生ご自身の体験から来たものなのでしょうか。
僕自身が、ダンスをやっててつまずいてた部分を、時間が経ってから「こういうことだったのか」と気付いたことを説明しています。過去の自分に向けていたりもしますね。特に早取り問題はダンサーとしてかなり多くの人が悩む問題なので説明に力を入れました。
――― マンガを描く上で影響を受けた作品はありますか(マンガに限らず小説や作品論等も含めて)
1話は海外ドラマの『GLEE』をかなり観ました。絵を描く上でずっと影響をうけてるのは中村明日美子先生の漫画です。
――― 絵柄においては中村明日美子先生と聞いて非常に納得するところがありました。実際に絵、そしてマンガを描かれる方から見たその魅力や、なかなか真似できないと感じるところはどういったところだと思われますか?
細くて少ない線なので、センスがモロに出てしまうところ。手数の少なさは実力ですよね。僕は描きこみと物量、例えばダンスシーンなら服のシワや逆光、謎のチリなどで押し切っています。
――― 先生がマンガを描きはじめたのはいつ頃だったのでしょうか
「おそらく僕がダンスで食ってくのは無理だな」と感じた19歳ごろです。
――― その頃、反対に「ダンスで食っていける」としたらどういったキャリアが考えられたのでしょうか。挫折というワードをご回答でいただきましたが、もし可能でしたらどんなギャップを感じておられたのかお伺いしたいです。
大阪は日本でもトップクラスに強いダンサーが集まってる街なのですが、地元でそこそこ踊れてるレベルでは、田舎から大阪に出てきたときに全く通用しなかったこと、また大阪で自分のいたコミュニティの中で一番上手かった子ですらダンスじゃない道に進んでることなどもあり、ギャップを感じました。もしダンスの方に行ってたら、ダンスインストラクターをやりつつバックダンサーをやったり定期的に自分のショーなどをやる、典型的なダンサーになってたかもしれません。当時はそういうケースしか知らなかったので。今はYouTubeやTikTokで個人的に発信して、ダンサー以外の方に刺さって売れる、みたいなパターンもよく見ますし、ダンサーの稼ぎ方に決まりは無いと感じることがあり、当時は視野が狭かったなと思います。
――― ダンスとマンガの両方に取り組んでいた時期があったのかなと思いますが、特にマンガについて上達していく感触みたいなものはどんな感じのものだったのでしょうか。
10代のときほぼダンスが無理だと感じたときには、もう漫画を上手くなるしかないと思ってたので、上手くなっていく喜びよりもあとに引けない必死さのほうが強かったです。実際に上達してるかもな、と感じたのはようやくここ1~2年くらいです。
――― 10代の頃、他ならぬマンガに挑戦しようと思えたのは何故だったのでしょうか。すごく読まれていたとか、絵が得意だったとか・・・?
基本的に何も褒められてこなかったのですが絵だけにはそこまで苦手意識が無かった気がします。覚えてるのは・・・、たぶん10歳くらいの時にテレビでちらっと映ったキャラクターを記憶だけでそのまま描き起こしたら「すげえな!」とリアクションがあって。そういう反応をされるのが珍しかったのでやけに覚えています。あとは単純にやっぱり読むのは好きでしたね。『六三四の剣』(村上もとか/小学館/週刊少年サンデー)『拳児』(原作:松田隆智,作画:藤原芳秀/小学館/週刊少年サンデー) 『SLAM DUNK』(井上雄彦/集英社/週刊少年ジャンプ)『るろうに剣心』(和月伸宏/集英社/週刊少年ジャンプ) など。小学生のころはスポーツやアクション系が多くて、高校生あたりから『AQUA』(天野こずえ/スクウェア・エニックス/月刊ステンシル→マッグガーデン/コミックブレイド)『苺ましまろ』(ばらスィー/KADOKAWA/電撃大王) などの癒し、萌え系にシフトしていきました。『AQUA』を読んだ時は「俺は絶対にこういう漫画が描きたい」と思ったのに、そういえば今のところ全然描けていませんね。
――― カラー頁の雰囲気が素敵です。マンガの制作は全てデジタル環境なのでしょうか。
漫画は今までは下描きまで原稿用紙にシャーペンで描いて、スキャナで取り込んでから液晶タブレットでペン入れというやり方でしたが最近は結構下描きからデジタルでやったりもします。家だとあまり集中出来ないのでコワーキングスペースに液晶タブレットを持っていって描いていますが液タブが壊れかけてるので最近iPad Proを導入してみました。カラーに関してはよく「塗り方が変わった」と感想をいただくるのですが、実はカラー作業をする間隔が空いてしまうので、毎回どうやって塗っていたか忘れているのです。
――― 家で先生の集中を妨げているものはなんですか?
猫とベッド。騒がしすぎない程度に人の気配があったほうが集中しやすいですね。今のところiPad Proにぜんぜん慣れないので最近は家での作業が多いです。猫は2歳のミヌエット、オスです。
――― いま読者として熱を上げているマンガはありますか。
単行本が出た瞬間買うのは島本和彦先生の『アオイホノオ』(小学館/ゲッサン)、船戸明里先生の『Under the Rose』(幻冬舎コミックス)です。
――― 書店員が沸き立つチョイスですね。先生はそれぞれどんなところに着目されていますか?
『アオイホノオ』は当時をリアルタイムで体験してた世代の、当時の熱量(もしかしたら当時以上かも)で描かれるオタク文化と、その地続きのところにいま自分がいるのだなと知ることができるのが嬉しいですね。『Under the Rose』は読み返すたびに違う解釈が生まれます。群像劇の面白さ、描写のしかた全てにおいて上手いと思う作品で、おそらく読み返した回数はダントツだと思います。『Under the Rose』にそんなリアクションをいただけて僕も嬉しいです。
――― 誰もやっていないジャンルがお好きとの事でしたが、いま興味が芽生えつつあるジャンルはありますか?
一つはコワーキングスペースもの。普段交わらない職種の人たちが交流したり、自営業の珍しい職種の人たちが多くて面白いなと自分も通うようになって思ったので。もうひとつはストーカー系のホラーもの。ストーカーされる側の怖さなどを描くホラー映画が好きでいつか挑戦したいと思っています。
――― 最後になりますが、これから『ワンダンス』に触れる読者の方に一言お願いいたします。
ダンスという題材に対して拒絶感を持ってしまう方もいると思うのですが、それはそのまま持ってきてもらっても大丈夫です。決して「ダンスを好きだと言わせてやる!」みたいなスタンスの漫画ではないので、気軽に読んでみてください。
珈琲先生、ありがとうございました!
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まんきき34号『ユグドラシルバー』 からあげたろう先生インタビュー

「麗しき永遠の花の都」。そう謳われたのも遥か昔の夢の跡。今では全てが凍てつく厳冬の国。そのゴミ溜め(レベルゼロ)で、かつて勇名を馳せた老騎士・ガル=ガルゥは、栄華を極めた国の衰退と同様に落ちぶれ残飯を食らう日々。己の”出番”など、もう終わったと思っていた。天より落ちてきた少女と出会うまでは──。

困難に立ち向かうための勇気が湧いてくる。
家族と引き裂かれた悲しさも世界が敵であるかのような理不尽も、
ガルとナルのふたりの正しい歩みを止める理由にはならない。
そんな真っ直ぐさが読者の胸を打つ『ユグドラシルバー』が本日発売。
ファンタジー作品としてこれだけの説得力がある背景にある考え、影響を受けた偉大な作品たち、そして先生自身が作品づくりで大切にしていること。
からあげたろう先生に、コミタン!チームでインタビューをさせていただきました。作品の試し読みはこちら!

――― この度は新作『ユグドラシルバー』の単行本発売、おめでとうございます。作中で描かれる世界の風景や服装から「ファンタジー作品が好きな人が取り組んでいる作品だ」と感じて嬉しくなりました。この作品が生まれたきっかけはどんなことだったのでしょうか。
子どもの頃から海外の小説やゲーム、映画等のファンタジー作品が大好きでした。ただ、本格的なファンタジーはいちから世界を構築していくものなので、好きだけど自分で描くのは大変だぞという思いがありました。編集さんとの新作打ち合わせの際にそういう事を話題にしたら編集さんが「好きなものを描いてください。それでいってみましょう」と言ってくれまして「えっいいの?」と今に至る感じです。こんなチャンス、後にはないかもなと思い頑張って描いています。最初はエルフの女の子の話を考えていたのですが、いつのまにかおじいさんが主人公になってしまいました。
――― 先生ご自身のファンタジー作品との出会い、そしてその後の遍歴はどういったものなんでしょうか? (大人になってすごいと感じた作品や、幼心に怖いと感じた作品が特に気になっています!)
子供の頃は『指輪物語』(J・R・R・トルーキン/評論社)『ナルニア国物語』(C・S・ルイス/岩波書店)『はてしない物語』(ミヒャエル・エンデ/岩波書店) などの海外児童文学やファンタジー小説にハマっていました。本の冒頭に物語世界の地図が書かれていて、読みながら地図を辿ってワクワクしたのを覚えています。映画もその頃は『ウィロー』(ロン・ハワード/1988年公開)『ラビリンス』(ジム・ヘンソン/1986年公開) など子ども向けファンタジー映画がたくさんあったのでよく観ていました。怖かったのは『ソーサリー』(スティーブ・ジャクソン/創土社) というゲームブックで、ひとつ選択を間違えると問答無用で首をはねられたりするのがすごく怖かった記憶があります。
あと、ファミコン全盛期だったので、ドラクエ、ファイナルファンタジー等のRPGゲームなどに親しんできました。近年では『ICO』『ワンダと巨像』(デザイナーとして上田文人/いずれもPS2)が好きです。最近では『ゲーム・オブ・スローンズ』(ジョージ・R・R・マーティン原作/HBO配信) などを観ています。クセのある人間のオンパレードで、怖いけどついつい観てしまっています。
漫画作品では『進撃の巨人』(諫山創/講談社)『ベルセルク』(三浦建太郎/白泉社)などのダークファンタジーの世界観に一人の人間がこれを考え出せるのはものすごい…と尊敬しています。
――― 『ユグドラシルバー』の世界でも地図や王都の構造などは設定がおありなのでしょうか
設定も一応ふんわりとは考えてはいるのですが、建物の構造というよりは、各層にどんな人間が住んでいるか…みたいな内容の方が多くて、まだビジュアルとかはカッチリとは決めてないんです。多分上に行けば行くほど暖かくなると思うので、着ている服も変わってくるだろうな…とかそんなこと考えてます。

――― スティーブ=ジャクソンの『ソーサリー』! 思わず懐かしんでしまいました。二巻の「城塞都市カーレ」が難しかった記憶があります。ゲームブックやTRPGは結構プレイされていたのでしょうか?
僕も「城塞都市カーレ」の一歩間違えば即死するヒリヒリした世界観が一番記憶に残っていて、この作品も多分影響を受けていると思います。TRPGにはまったく触れたことはないのですが、もしハマっていたら創作するのにめちゃくちゃ役に立っただろうなと思いますね。
――― 『ソーサリー』というと日本のイラストとは違った絵柄の挿絵が印象的でしたが、作画的に影響を受けている部分もあるのでしょうか?(と言いますのは先生の絵柄からあまりスクリーントーンを使わない印象があり、ひょっとして海外イラストの影響も強いのかな?と思いました)
多分あると思います。海外の小説『指輪物語』の挿絵とかあとは『ムーミン』の作者のトーベ・ヤンソンさんのイラストが子供の頃からすごく好きでした。ちょっと版画みたいなペンタッチで、目を惹きたい所を白や黒でパッキリ抜いたり、とかそういうタッチがすごく好きで、白と黒だけで画面が成り立つような感じを漫画にも取り入れられたらいいな…と思っています。
――― 近頃マンガ市場で多く見られる「ファンタジー的な作品」では、作中の世界設定や強さのステータス化などに共通する部分が多く見られるなと感じています。一方先生の『わたしのカイロス』や『ユグドラシルバー』にはそれらとは違う、「純ファンタジー」と私たちが感じるような骨太さを読者として感じています。こういった認識がどのような場所から来ているのか、先生の方で工夫されている点はあるのでしょうか。
『わたしのカイロス』は星々を巡る話だったので、砂漠の国や水の国、火山の国など地形や気候が違えば人の暮らしや服装、住んでいる人の考え方も変わってくるはずだろうなと思いながら描いていた気がします。同じような感覚で、『ユグドラシルバー』でも一年中雪が降り続ける極寒の地だと人はどんな風になるのだろう?みたいなことを想像しながら描いています。
――― いちから世界を構築するのは本当に難しいことだと感じます。今作でこの世界構築がハマったというか手応えを感じたタイミングやアイデアはどんなところだったのでしょうか。
元々は「雪に閉ざされた世界を元に戻す」みたいな話を考えていたのですが、「城の頂上だけは春のまま」というアイデアを思いついたときは、上へ上へ登っていく視覚的な方向性もあるからこれはいいかも…?と思いました。
――― 先生が思うファンタジーの「お約束」的シーンはありますか?
ファンタジーのお約束…改めて聞かれますとなんだか難しいですね。王国の入り口に、ものすごく巨大な石像が対で立っているシーンなんか見るとこれこれこういうの!って思いますね。
――― 真っ直ぐな主人公に対して、悪役が本当に嫌な、あるいは不気味な存在として描かれています。主人公と悪役のキャラクターづくりで意識している点はどんなところなのでしょうか。
真っ直ぐすぎる感情はベクトルが違うだけで善にも悪にもなりえるなと思っています。愛のためには人を殺すことも辞さない、みたいな。主人公サイドと悪役サイドで違うことといえば、他人のために身を尽くす事ができるか、自分の都合しか考えないか、の違いかなと思っています。
――― 名脇役としてカッコいいおじさん、いやおじいさんが出てくることも先生の作品の特徴だと感じています。ここにはこだわりが・・・?
漫画よりも映画の影響だと思うのですが、『インディ・ジョーンズ』(ジョージ・ルーカス/シリーズ多数) の父親役のショーン・コネリーとか、『ロード・オブ・ザ・リング』(ピーター・ジャクソン/2001年公開) のガンダルフ役のイアン・マッケランとかちょっと肩の力の抜けたユーモラスなおじさんやおじいさんって、かっこいいときとのギャップがすごくいいんですよね。逆にかっこいい青年ってどう描くの…?って悩んだりします。
――― 確かにあまり青年らしい青年、特に男性はあまり見かけないですね。いわゆる青年期というものにどんなイメージをお持ちなのでしょうか。
僕自身も10代の頃とかはそうだったのですが、「根拠のない自信で突き進んでいくことのできる人間」という感じです。そこが良いところでもあり、まぶしくてうらやましさもあり、馬鹿でもろいところも兼ね備えている時期な気がします。と、ここまで書いてそういう人間も一度描いてみたいなという気持ちにもなってきました。
――― 見開きで描かれるコマが非常に気持ちいい作品です。コマ割りやコマ内でのカメラの位置についてどんなことを意識されているのでしょうか。
ありがとうございます。コマ割りは未だに勉強中ですが、ページの中にひとつでも印象に残るコマがあればいいなと思いながら描いています。『ユグドラシルバー』の1話は編集さんに何ページになってもいいですよと言われたので、つい贅沢に見開きバンバン使っちゃいました。あとは顔アップのコマだらけにならないよう、できるだけ全身が入るような引いた画面のコマを入れるように気をつけています。
――― 今作から特に先生ご自身が気に入っているページやコマがありましたら教えてください。
第1話の中ではガルに腕が生える直前の、ナルが自分をかばってくれるガルに心を許し、ありがとうと花が咲き乱れる一連のシーンが気持ちよく描けたかなと思っています。

――― マンガを描く上で影響を受けた作品はありますか(マンガに限らず小説や作品論等も含めて)
一番影響を受けているのは映画だと思います。特に『スター・ウォーズ』(ジョージ・ルーカス)『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(ロバート・ゼメキス) などの80年代のハリウッド作品。あとはジブリ映画、特に『天空の城ラピュタ』(1986年公開) が大好きでボーイミーツガール物が好きなのもここから来ているのかもしれません。『ユグドラシルバー』でも、つい空から女の子を降らせちゃいました。
――― いま読者として熱を上げているマンガはありますか。
最近ですと『とんがり帽子のアトリエ』(白浜鴎/講談社) です。漫画表現ってここまで自由なのかと毎回興奮しながら読んでいます。あとは『メイドインアビス』(つくしあきひと/竹書房)『宝石の国』(市川春子/講談社) などは感情を掻きむしられるような展開に身悶えしながら読んでいます。『ゴールデンカムイ』(野田サトル/集英社) の登場キャラの強さ、爆笑してしまいます。
――― ガルとナル、小冊子表紙でも対象的な外見の二人をそれぞれ描くにあたって気をつかっていることはありますか?
「ガルはどっしりと、ナルは軽やかに」を基本にしているつもりです。ガルの毛皮は若干ゴワゴワに、ナルの毛皮はふわふわした感じにとか…ですかね。ガルは老人ですがあまり顔のシワで表現しないようにとか、ナルは髪型をあまり固定せずいつも風になびいてる感じに…とか、細かいとこですとそういうところを気にしながら描いている時がすごく楽しいです。
――― ガル=ガルゥという反復が珍しくとても耳馴染みの良いネーミングですが、何か由来のあるものなのでしょうか。
キャラの名前って妙に凝るよりも、音的に覚えてもらいやすい名前が一番いいんじゃないかなと思ってます。ガルは犬が牙を向いて吠える感じの「ガルガル」から取りました。ガルは大型犬のイメージです。繰り返しの感じは富野由悠季監督のアニメ作品の影響です。「キッチ・キッチン」とか聞いたら一発で憶えてしまえるネーミングセンスがすごいなと思っています。
――― 「好きなものを」と最初のGOサインをくださった編集さんですが、その後はどのような打合せをされているのでしょうか。
いろいろな編集さんがいますが、『ユグドラシルバー』の編集さんにはやりたいことをそのままやらせてもらえていると思います。その上で、少年漫画的にはどう盛り上がればいいかとかアドバイスをくれたり、あと「このナルのコマめっちゃ可愛く描いてもらえると僕が嬉しいです」とか言われています。
――― 前作『わたしのカイロス』との共通点として、主人公の手足の欠損がストーリー進行の鍵になっています。そのことがただのハンディになるのではなく、様々な角度からの強さが描かれる展開が好きなのですが、何か先生のこだわりがあるところなのでしょうか。
特に欠損表現自体が好きというわけではないのですが、というか欠損表現も「痛い痛い!」と思いながら描いてたりします。でも多分自分は「失ったものを取り戻す」という話が好きなんだろうなと思っています。もっと言えば「何かを失ったけれど、諦めず頑張るうちにそれよりもすごいものを手に入れた」話が好きなのかもしれません。
――― 先生がマンガを描きはじめたのはいつ頃だったのでしょうか
本格的に漫画を描き始めてからは10年くらいだと思います。最初は小学生くらいの時に姉に見せて面白がらせるためにノートの片隅に描いていた程度で、それからは大人になるまで全く描いていませんでした。2000年代くらいになってインターネットが気軽に見られるようになってきた頃に、個人サイトとか同人誌とかいうものがあると初めて知って素人でも漫画を描いていいんだ!と描き始めた感じです。
――― 小学生くらいの頃に印象的だったマンガは?
鳥山明先生の『ドラゴンボール』(集英社)です。子供心にも鳥山先生のなめらかな線や、白と黒のバランスに惚れ惚れしたのを覚えています。あとは桜玉吉先生の『しあわせのかたち』(エンターブレイン)という漫画が好きでした。女の子とディフォルメの可愛さはかなり影響を受けていると思います。
――― 今後の作品発表の媒体として紙とwebとの差を意識することはありますか?
結構あります。ページ数の必要な超大作みたいなのを描こうと思うとやっぱり紙媒体かなと思いますし、流れの早いwebで作品を描くときは軽く読めるコメディの方が向いてるのかなとか思います。作品更新したときの反応や感想の早さはやっぱりwebの方が早いなと思います。
――― 書店に足を運ばれることはありますか?
書店は好きなのでよく行きます。ネットだとやはり自分の好きなものしか目に入らないのでアンテナを広げるためや、装丁も大好きなのでいろんな本の表紙を眺めてるだけでも楽しいです。
――― この作品を描かれるにあたって大事にしている信念のようなものはありますか?
シンプルに、「前へ進む漫画」であることを忘れずに思い返しながら、描いていきたいなと思っています。
――― 最後になりますが、これから『ユグドラシルバー』に触れる読者の方に一言お願いいたします。
担当の編集さんとも「テンポよくガンガン進んでいく漫画にしたいですね」と話しています。ガルとナルと一緒に、王都をどんどん駆け上って行く感じで読んでいただけましたらうれしいです。
からあげたろう先生、ありがとうございました!
先生のイラスト表紙が目印のまんきき34号の頒布店はこちらで案内しています

まんきき33号『つれづれ花譚』(長田佳奈先生)

少し昔の日本を舞台に、日々を暮らす人びとの生活の一瞬に、「花」を添えて描く…。 『こうふく画報』の長田佳奈が贈るノスタルジック・オムニバスコミック!

生活の景色に根ざした一つ一つのシーンの流麗さ、そして1冊の単行本を通じて浮かび上がる登場人物たちと町の暮らしの様子。
ずっと棚に置きたくなる素晴らしい作品を生み出す長田佳奈先生に、コミタン!チームでインタビューをさせていただきました。

――― 約1年半ぶりの単行本発売、楽しみにしていました。生活のワンシーンを切り取る題材として、前作『こうふく画報』では食が、今作『つれづれ花譚』では花が作品の中心になっています。それぞれどのようにこの題材を選ばれたのでしょうか
『こうふく画報』は担当さんから「食」をテーマにした漫画を描いてほしいという要望があったので、それを受けました。『つれづれ花譚』は打ち合わせの際に「食」の次は「花」かなという流れで選んでます。どちらも生活の中に在るものなので、自然に扱えるのが共通点でしょうか。
――― 「食」というテーマ設定にきっかけや心当たりはあったのでしょうか
人気だからでしょうか。流行りもあったと思います。あまり食べ物に焦点をあてた話は描けないとお話したんですが、それでも良いということでしたので好きなようにやらせて頂きました。
――― 「花」という題材で一番最初に思いついたイメージやシーンは
第2話の見開きのシーンでしょうか。歴史ある生花店さんにお話を伺う機会を頂いたのですが、戦前に花の仕入れや運搬で自転車を使っていた頃、クリスマスに使うモミの木を座席から荷台に横に渡して置いて、その木の上にまたがって運転したというエピソードを聞いて、絵になりそうで面白かったので。
――― 登場人物たちの顔つきや髪型・瞳で表現される個性が非常に豊かです。これだけの描き分けに際して、キャラクター設定はどのように行われているのでしょうか
そう感じていただけて嬉しいです。キャラクター設定は、まず簡単な「◯◯な人」といったところから始まって生育歴と趣味嗜好を考えます。どちらも本編には出さないところですが、その人をその人たらしめる大事な要素だと思うので大体でも必ず決めておきます。そこから人物を想像してデザインしますが、生活水準の差が服装などに顕著に現れる時代でしたのでその辺りは少し注意しました。
――― 各話のつながりから、登場人物たちの住むご町内のような生活の半径を感じられる構成が美しいです。まるで鳥の目を持つかのような構成に秘訣はあるのでしょうか
各話のつながりは登場人物や店などで作っていましたが、そこはほとんど思いつきでやっていました。なので秘訣はわかりませんが、すれ違う人にもその人の物語がある、というスタンスで話を描きたいといつも思ってます。所謂「モブ」を極力描かずにいたいです。通行人を描くときにも、この人は今こういう理由でここを歩いている、くらいの設定はつけておきたくて。同じ舞台で視点になる人物が変わる話の面白さは、吉田秋生先生の『櫻の園』(白泉社)『ラヴァーズ・キス』(小学館)で感じて今でもその構成力に憧れてます。まさに鳥の目を持つかのような舞台設定です。
――― どちらの作品においても、道具や風習を丁寧に描かれていれます。時代設定はどのようにお決めになったのでしょうか
単純に「好き」が理由です。大正~昭和初期の生活様式や道具を描きたいと思ったのでそのあたりの時代に決めました。
――― この時代を好きになったきっかけはあったのでしょうか。作中での部屋や建物の描写の細やかさに観察眼を感じます。
気がついたら好きだったので、きっかけはわかりません。建物の描画はまだまだ見たままをやっと描いてる感じなので、そこに住んでいる人の人柄や生活が分かる、くらいの背景を将来は描けるようになりたいです。
――― 先生の暮らしにもこういった道具たちがありますか
机や卓上本棚は古家具です。照明や食器、調理器具など日用品もいくつか。可能なら内装から何まで全て揃えたいですが利便性を考えるとなかなか無理ですね。
――― 近々欲しいと考えている、あるいは欲しいけれども長らく保留している古道具はありますか
プリンターを置くサイドテーブルとかあったら欲しいです。長らく保留してるのは、モールガラスの食器棚。憧れてますが、部屋の備え付けの収納で間に合ってるので購入に踏み切れません。
――― 当時の道具や生活様式、特に職業のことなどはどのように調べておられるのでしょうか。アレンジを入れた部分はありますか
主に資料館や書籍です。あとは詳しい方から話を伺う機会もありました。アレンジというか、話し方からちょっとした仕草まで現在とは異なる点が多いので、もろもろ現代風にはなっていると思います。時代考証を突き詰めてしまうと自分も大変ですし、取っつき難くなってしまうので。その点では、NHKの朝ドラの匙加減はとても参考になりました。ただその中でも、時代的な嘘はできるだけ無いよう気をつけてます。
――― 作中の雰囲気を感じるのに特にオススメの資料館やスポットはありますか
モデルにした建物が多いので、江戸東京たてもの園や明治村でしょうか。あとはどこの地域にも文化財として保存されている建築があると思うので、興味があれば調べて行ってみると面白いと思います。
――― 1話8ページほどと短編に分類される各話ですが、話の尺ということで意識されることはありますか
余計なコマや流れを削る意識は毎回ありました。これはすごく漫画の基本の勉強になったと思います。あと短編は短い尺だからこその良さもあるので、その良さを少しでも出せたら良いと思ってました。昔あった、プロゴルファーの小話をもとにしたCMが印象的で、今でも覚えてるんですけど、「病気の子供はいないんだ」ってフレーズで、見たことある人はだいたいアア~って言うんですよね。うまく言えませんけど、短編漫画ではあの感じを目指してます。
――― 単行本化に向けて原稿を加筆修正されたと伺いましたが、主にどういったところに手を加えますか
時間が経つと自分の絵でも少し客観視できるので、違和感のある部分を修正します。人物のパーツの大きさや位置などが多いです。加筆は時間の関係で省いた背景、服や小物の柄などの描き込み、トーンの貼り付けなどです。今回の『つれづれ花譚』では1話の女の子の服がもとはワンピースでしたが、やっぱり着物が良いと思って単行本ではそっくり着せ替えました。電子版の1話ずつ販売しているものは雑誌掲載時のままで読めますので、ご興味があればそちらをぜひ。
――― 座敷わらしとコミカルな同居生活を描いた『2KZ』では4コマ作品に取り組まれていました。画面作りにおいて、4コマ作品とそうでない作品とで意識が異なるのはどのようなポイントですか
視線誘導でしょうか。4コマ漫画は縦にコマが2列、ストーリー漫画では自由にコマが割れますのでこの違いから意識が変わってると思います。あと絵柄も4コマではなるべく線を少なくするようにしました。
――― 『2KZ』と『こうふく画報』の間で作画に変化をつけられたとのことですが、使われている道具にも変化はありましたか
特に変わりませんが、『こうふく画報』ではボールペンや筆ペンをよく使うようになりました。なんとなくつけペンで描かないといけない、と思ってそれ以外の文房具はあまり試してきませんでしたが、描きやすければ何でもいいという気持ちが、だんだん勝っていってたので。
――― 今作から特に先生ご自身が気に入っているページやコマがありましたら教えてください。
第3話の4ページ目は小物がいろいろ描けて楽しかったです。この話からデジタルで作画する部分が多くなってますが、今までアナログでは描けなかったものも、パソコンの力を借りて描けるようになりました。

――― 作品を通じて「時間の流れ」に対して独特な空気感を受け取っております。先生は時間の経過や、人間と道具の時間の尺の違いなど、どういったことを感じられているのでしょうか
漫画に間をとりがちなので、読んでいて「時間の流れ」はゆっくりに感じられるかもしれません。会話劇でも、何か言われたら1コマ置いてから反応、のような。自分が丁度いい、と思う会話のテンポがそれくらいなので、空気作りを意識してるというよりは、ただの癖です。人間と道具の時間の尺の違いというと、なんだか難しい話で見当違いな回答かもしれませんが、私が現在、資料館や博物館で見る昔の道具は、かつてどこかで生活していた人が使っていたものなんだと思うと、道具を通じてその人と何か少し繋がったような、そんな不思議な気持ちになります。
――― キャラクターの本編には出ない設定について成る程と思いました。少しだけ具体的にお尋ねしてもよいでしょうか。(もしお伺いすることができれば、個人的に好きな『つれづれ花譚』6話の伊達男・麗二と澄さんのことを知りたいです)
麗二は名前に「二」のつく通り、次男です。兄をお手本に、時には盾にして育ってきたので、自由奔放に振舞いながらも、それを許してもらえる要領の良さや愛嬌を、自然に身につけてきた人です。自分が人目を引く容姿なのも分かっていて、それを隠さないところが逆に嫌味の無い感じになればいいと考えてましたので、憎めないキャラクターと思って頂けて嬉しいです。女性経験は多そうですが、きっと片思いしたことはないので「本気の子」には奥手な面があると思います。

cafe寒苦鳥は洋食とコーヒーと、夜にはお酒も出すカフェーです。マダムが仕事をしたい女性を雇って経営しています。中には身寄りが無く、生活ともども面倒をみているような子もいますが、澄がそれにあたります。澄はかつて製糸工場で働いていましたが、過酷な労働で体を壊してしまい、マダムに引き取られ療養の後、cafe寒苦鳥で働いています。麗二とは対照的に自分に自信がなく、褒められることが苦手で、女性扱いされることにも居心地悪さを感じている人です。

――― 先生の本棚にある、思い出のマンガや小説のことをちょっとだけ教えてください
はじめて買った漫画本は衛藤ヒロユキ先生の『魔法陣グルグル』(スクウェア・エニックス) の4巻です。4巻から買ってしまうあたりすごく子どもらしいですね。
――― ご自身のことをどんな子供だったと振り返りますか
落ち着きがなく、怪我の絶えない子どもでした。それと年齢のわりに考え方が幼くて、甘ったれてたと思います。今もそんな変わってないので、振り返っていて心苦しいです。
――― 先生がマンガを描きはじめたのはいつ頃からだったのでしょうか
絵は小さいころから描いてましたが、自分の漫画をちゃんと描いたのは二十歳くらいのときでしょうか。
――― 「漫画をちゃんと描く」ことへのきっかけはどんなものだったのでしょうか
就職する上で、趣味の絵とどう関わっていくか悩んでいた時期だったので、仕事にできる可能性もあるのか試してみたかったんだと思います。
――― 先生のマンガ作りに影響が大きかったと感じる作品があれば教えてください
たくさんありますが、長編と短編で1作品ずつ挙げます。長編では柳沼行先生の『ふたつのスピカ』(メディアファクトリー) です。登場人物の心が動く場面で、セリフもモノローグも無い演出がけっこう多いんですが、その言葉の無い感情表現がとても好きなんです。描かれた人間の感情を想像して、反芻して、解釈するという面白さにも気づかされて、私もこんな風に漫画を描けたらなと思いました。もちろん今でも思ってます。短編では萩尾望都先生の『半神』(小学館)。たった16ページでここまで愛について深く刺さる物語があるんだなと衝撃的でした。
――― いま続きの巻を楽しみにしているマンガはありますか
水沢悦子先生の『ヤコとポコ』(秋田書店) です。優しくされると泣きそうになってしまうことってあると思うんですけど、読んでいてそんな気持ちになります。ポコちゃん、うちにも居てほしいです。
――― マンガに限らず、これまでにハマってきたもの、いまハマっているものがあったら教えてください
文化財建造物や資料館を巡ったり、動物園、水族館に行ったりしてました。映画も好きです。今ハマってるのは炊飯器で作ったシチュー。おいしくて簡単なのでそればかり食べてます。
――― 次回作の題材として、現時点でぼんやりと興味をお持ちのものはありますか
いろいろと興味は尽きませんが、題材となると、描く機会があればまた改めて…といった具合です。
――― 最後になりますが、これから『つれづれ花譚』に触れる読者の方に一言お願いいたします
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。もし気に入ってくださったら、その方に宛てたお話だと思ってます。
長田佳奈先生、ありがとうございました!
先生のイラスト表紙が目印のまんきき33号の頒布店はこちらで案内しています