「そういった評価は、結果に関わらずきっと今後の漫画制作の糧になるだろうと思えました」まんきき44号『スカライティ』日々曜先生インタビュー

ひとりぼっちディストピア紀行、開幕!
荒廃した世界を旅する一体のロボット。
彼の目的は、不死身となり世界に残ってしまった人間の未練を断ち切り、“殺す”こと。
出会い、未練、そして“別れ”を通じて人を知る。
彼の旅の行き着く果ては、一体──!?

作品の試し読みはこちら!

――― 初単行本おめでとうございます!物語と絵の親和性と言いますか、それぞれに魅力を持ちながらも掛け算でさらに引き込まれる今作を楽しく拝読しています。このすこしふしぎな終末世界で、人々の思いを成就させ永遠の眠りを与えていくという物語が生まれた経緯をお聞きしたいです。
ありがとうございます!この設定ができた明確な理由は覚えておりません…。漫画家として活動する前は船乗りとして働いていたのですが、仕事柄、危険や死が身近にあり、またそれについて長く考えさせられる状況でしたので、その時の環境が死生観的なテーマを含んだこの作品を形作るきっかけになったのかなと自分では思っています。
――― 3話では作家が本を書き始めた経緯が語られましたが、先生が数ある創作の中からマンガを選んだきっかけはどんなものでしたか?
子供の頃からマンガが身近にあったことと、作業を全てひとりで出来ること、などが大きいかと思います。とはいえこれまでを振り返ってみると、常に周りの人たちに協力してもらい、支えられながら作品を作ってきたんだなと、最近はよく思います。
――― 現代の船は様々な専門性を要求しそうな印象ですが、どんなお仕事だったのか差し障りのない範囲で教えていただけないでしょうか。
3ヶ月~半年ほど船舶に乗り、物資輸送のため船舶を運用していく仕事です。私はその中でも、機械を整備したり運用したりする部署に勤めておりました。大きな機械を取り扱ったり、大自然の力に晒されたりするので、物理的な危険は常に身近に存在していたと思います。また精神的な面としても、陸から離れた洋上でほとんどの日常を過ごすので、なかなか電波が届かず世間の情報にあまり触れられなかったりして、大袈裟にいうと自分が浮世離れしていくような感覚があり怖かったです。
――― お話を聞くだけでも厳しさが伝わる船乗り業ですが、そんな中からマンガの執筆を始めたきっかけはどんなことだったのでしょうか。
高校生の頃から薄ぼんやりと漫画を描いてみたいなと思っていましたので、特に船乗りだからというきっかけは無いかと思います。とはいえ、実際に漫画を描き始めたのは23~24歳ころだと記憶していて、その頃に「このままだと何もできずに人生が終わってしまう!」といった焦りがあって、漫画を描き始めた部分があったと思います。
――― 小学館が主催する新人コミック大賞、青年部門での大賞受賞を知った瞬間はどのような感じでしたか?また数ある賞の中でこちらに投稿をされたきっかけはどんなものだったのでしょうか。
前述のように、まだ船に乗って働いていた時だったので、船上にて編集部から連絡をいただきました。その頃、海は大時化な上に、航海もかなりの繁忙期だったのでフラフラになりながら夢見心地で受賞連絡を聞いた覚えがあります。なので1週間ほどは「あれは夢だったのではないか…?」と思っていました。小学館新人コミック大賞へ投稿した理由はいくつもあるのですが、まず、どうせ挑むのなら1番デッカい賞に応募しようと思っていたので、その点は賞金の額を見て決めました。また、他雑誌の各賞の作品に対する審査員評と比べて、新人コミック大賞では、最も正直で辛辣で忖度のない審査員評を頂けると思ったからです。そういった評価は、結果に関わらずきっと今後の漫画制作の糧になるだろうと思えました。実際に私が受賞した際に頂いた各先生方からの講評は、一言一句全てが宝物で大切な思い出であり、漫画を描いていく糧となりました。また、第82回で大賞を受賞された関野葵先生の『縁を切る男』を初めて読んだ際に、こんなハイレベルな作品じゃないと大賞は受賞できないのか…と、完全に打ちひしがれていたのですが、同時に、私もこの作品と同じ舞台に立ちたい!と思い、同じ賞を選びました。その後、受賞作の原案ネームをイベントでの出張編集部へ持ち込んで、数社回らせてもらったのですが、どこも反応が悪くて、もうこれはダメなのかな…と諦めていたのですが、たまたまその場で関野先生にお会いしたので、せっかくなので記念にとネームを見てもらったら、関野先生だけは「面白いので賞に出すべきだ!」と言ってくださったので、もうこれは新人コミック大賞以外ないなと思いました。
――― 関野先生との邂逅、貴重なお話をありがとうございます。しみじみ拝読しました。その後、アシスタントなどを通じて他のマンガ家の方々とも接点が生まれたりしたのでしょうか。
アシスタントの経験はほとんどなく、他の漫画家さんと知り合う機会はあまりなかったように思うのですが、漫画を描き続けていると自ずと漫画家さんの知り合いが増えていったようにも感じます。中には、憧れていた方とも知り合えてお話しさせてもらったりもしたので、そういった時に漫画を描いていてよかったなと思います。
――― その受賞作となった『トリックスター』についてもお話を聞かせてください。見事なモラトリアム感と人間性が壊れそうなほどの事件が起こる読み切りですが、先生自身はどんな学生生活をお過ごしになったのでしょうか。
高校が船員を育てるというような専門職系の学校だったのですが、そこがほぼ全寮生な上、山と海に囲まれていた田舎だった為、隔離された刑務所みたいな環境で浮世離れしたような高校3年間を過ごしました。その分、自然には多く触れ合えたのかなと思います。私は大学には行ったことがないので、大学生を描いた『トリックスター』の生活感とは全く無関係かなと思います。
――― かえって『トリックスター』の着想になったきっかけも気になるところです。どんなところがスタート地点になったのでしょうか。
ストーリーとしては、知り合いに「(私自身の) 女性観が知りたい」と言われたことがきっかけになったのかと記憶していますが、最終的には「精神的童貞の卒業について」といったテーマの作品となりました。
――― 大きな賞の受賞からの初連載というのもまた緊張があるものかなと思いますが、どのような準備を進めて、また踏ん切りをつけられたのでしょうか。
連載前の準備としては主に世界観や設定を固めていくことに時間を費やしました。通常の連載とは違う形での決定となったので、様々な緊張やプレッシャーもありましたが、どんな経緯であれ、結局自分のやるべきことは漫画を書くこと以外にないなという考えに至り、連載に集中できたかなと思います。また、自分の思い描く理想とするような作品を実際に具現化することはできないものですが、ただそういった、どう足掻いてもその時に描けるものしか描けないという現実を理解することで、むしろ踏ん切りがついて目の前の原稿に向き合っていけたなとも思います。また、それゆえに一回一回を精一杯やっていかねば、とも思えました。
――― 『スカライティ』で一番時間がかかっているのはどんなところですか?
全部満遍なく苦手なので、全てにおいていつも苦労しています。また、この作品の設定上しょうがないことですが、自分の中で愛着が湧いてきたタイミングでどのキャラクターも死んでしまうので、その点については苦労というか、毎回心苦しく思っています。
――― 1話の見開き、2話冒頭の枝でのコマ割り、3話の本を開くコマ、5話の「想像してしまったのだ」など読後に印象を残す絵が多いことにも魅力を感じています。ネームの段階でこれが描きたいという絵がパッと出て来るのでしょうか?
ネームの時に限らず、どのタイミングでも描きたいと感じさせられるシーンを思いつくことはありますが、そのほとんどはネーム以前プロット以前の構想段階であることが多いです。
――― 作中の絵につきまして「描きたいと感じさせられる(思わせられる) シーン」と受動態だったことを面白く感じています。『スカライティ』では描きたい絵に向かって物語を肉付けしていくのでしょうか?それとも大まかな物語のワンシーンから絵を起こしていくのでしょうか?
基本的には、先に思いついたシーンや絵に合わせて全体の物語を作っていくパターンが多いですが、それだけだと大抵物語が破綻してしまうので、それらの案を切り捨てながら、物語の形にしていく感じです。なので、形にすることが出来なかったアイデアもたくさんあるのですが、その分新たに発生するアイデアもあったかと思います。
――― スカライティでまさに先生が描きたいと感じたコマ、楽しかった・力作のコマをご紹介いただけないでしょうか。
・1話目の序盤と終盤の見開きページ

(こちらは序盤)

・2話目の樹の枝でコマを割ったページ

・5話目の回想中に部屋に海水が流れ込んでくるコマ

・6話目14ページ目の上部
 こちらはぜひ単行本で!

などです!

――― 先生の作画環境を教えてください
作画環境はフルデジタルで、機材はiPad、ソフトはクリップスタジオを使用しています。ネームはたまに紙とペンを使ったりしてます。長年iPadを使用してきたので、新人コミック大賞の副賞で頂いた機材については残念ながら活用できておらず、宝の持ち腐れとなっていますが、思い出の品として大切に保管しています。
――― iPadでの作画というのは珍しいお話で気になっています。どんなメリットとデメリットを感じておられますか?
メリットとしては、持ち運べるのでどこででも作業ができることや、iPad一台で漫画制作の全ての作業を完結できることなどがあります。あまりデメリットを感じたことはないのですが、取り回しがしやすい分、例えば寝転びながらでも作業ができるので、逆にそれが身体を痛める原因にもなったりするかもしれません。
――― タイトルの『スカライティ』や登場人物たちの名前、どれもなかなか聞き慣れないのにいい音を持っているなと感じています。こういったネーミングについてはどこから着想を得ているのでしょうか。
言葉の音には気をつけているので、そう思っていただけて嬉しいです!趣味で気に入った言葉や新しく知った言葉をメモして、言葉集めをしているのですが、だいたいはその中のものを引用して使っています。
――― 先生が作品作りに影響を受けたと感じるマンガはありますか?
漫画といえば少年誌のバトル漫画しか知らなかった高校生の頃に浅野いにお先生の『おやすみプンプン』(小学館) を読んだのですが、漫画はこんなにも自由で幅のある感情を描いてもいいんだなと感銘を受けました。作品作りというか、具体的な部分では参考に出来てはいないのですが、もっと根幹の部分として、漫画の自由さについて影響を受けたかなと思います。描線については、松本大洋先生の影響を受けているかと思います。私は絵を描き始めた頃にいろんな理由で、真っ直ぐな線を引くことができずに悩んでいた時期があったんですが、松本大洋先生の作品に出逢って、整った曲線や綺麗な直線だけが美しい描線ではないのだと感じて、その後の漫画を描く勇気を頂けたなと思います。ベタの使い方については尾田栄一郎先生の『ONE PIECE』(集英社) を読んだ時に、初めてベタを美しく感じ感銘を受けました。他にも、影響を受けた作品はここではあげきれないほどたくさんあります!自分は常に様々な作品から影響を受けているなと思います。
――― いま読者として熱を上げている連載作品(マンガ) があったら教えてください。
浄土るる先生の『ヘブンの天秤』(小学館) です。残酷な展開や心苦しい描写がある中でも、笑えるシーンがたくさん入っていて、そのバランスが心地良いような、クセになる読み味があって最高です。漫画を描く人間としての目線で漫画を読んでしまいがちなのですが、完全に読者目線で作品を享受できる、そんな数少ない作品です。
――― 気鋭の作家、実力のある新人・若手の読み切りが多く掲載される「月刊!スピリッツ」という雑誌は先生にとってどんな場所でしょうか。雑誌に自分のマンガが載っていることで感じることはありますか?
初めて自分の作品が掲載された雑誌でもあるので、思い出深い場所となっています。また、初連載も同じ雑誌での掲載となりましたので、大変嬉しく思いました。雑誌に自分のマンガが載っていることについては、単純に感動がありました。数年前までは、自分の漫画が掲載されている雑誌が書店に並ぶなんて夢にも思っていなかったので。
――― 現時点でマンガ家として何か目標としているようなことはありますか?
長期的な目標としては、前述の小学館新人コミック大賞での審査員をできるくらいになれたらなと思っています。あと、今の掲載誌で表紙を飾ることです!
――― 最後になりますが、はじめて作品に触れる読者の方に一言お願いできればと思います。
作品に触れていただきありがとうございます!作品を読んでみてどう思ったか、ぜひ教えてください!よろしくお願いします!
日々曜先生、ありがとうございました!
先生のイラスト表紙が目印のまんきき44号の頒布店はこちらで案内しています

「最終的には好きを貫いて今に至ります」まんきき43号『ブレス』園山ゆきの先生インタビュー

ブレス1巻カバー

元モデルの宇田川アイアは、メイクアップアーティストになる夢を持っていたが、周りから否定されることを恐れて夢を諦めていた。ある日アイアは、顔のそばかすを隠すように背中を丸めている大人しい女の子・炭崎純と学園祭のコンテストに出場することになった。衣装・ヘアメイクを担当するスタイリスト役とモデル役の2人1組でランウェイを歩くコンテストで、アイアは炭崎にメイクをすることに。炭崎とのやり取りの中で教室では見せない魅力を炭崎に感じたアイアは、メイクで炭崎の魅力を引き出し学園祭に挑む。

作品の試し読みはこちら!

――― 1巻発売まもなくの重版おめでとうございます!書店としても今年のスマッシュヒットだと見ていますが、先生自身はこの反響をどのように受け止めておられるでしょうか。
大変ありがたく思っております。ファンレターをいただいたりSNSでの反応を見ることが励みになっています。
――― 学園祭のステージをきっかけに大きな転換を迎える宇田川アイアと炭崎純のキャラクター、そしてその二人を結びつける「メイク」の面白さと、読みどころの詰まった1話でした。今作の着想のきっかけ、またその中からこの1話というのはどのように作り上げたものだったのでしょうか。
もともとメイクは描きたい題材でした。1話に関しては、女の子が男の子にキスをするシーンがまずあって、メイクで内面や行動がどう変化していくのかを念頭に置きつつキャラクターを考えていきました。
――― 先生の身近にもファッションやメイクがあったのでしょうか。
ファッションやメイクは自分の気持ちを盛り上げてくれるので好きです。特にメイクはイベントがあると足を運んだりしていました。
――― 先生自身がメイクに興味をもつようになったきっかけはどんなことだったのでしょうか。特にステージメイクについてはなかなか縁がなくて。
元々キラキラしたものが好きで、小学生の頃から100円均一のお店のコスメ売り場を見ていました。ファッションショーのメイクなんかは個性が際立っていて見ていて楽しいです。
――― 先生がはじめてメイクをしたときのことを覚えていらっしゃいますか。
あんまり覚えていないです…。でも、初めてコスメ売り場のカウンターでメイクをしてもらった時には凄くワクワクしました。プロの手でやってもらうと仕上がりが全然違うと感じました。
――― 自分の人生にすごく前向きになれるような、自分で自分を肯定する意志を感じるセリフが今作の大きな魅力の一つです。一方でキャラクターたちがぶつかる壁や悩みにもすごくリアリティを感じています。先生自身、何か心に留めている指針のようなものをお持ちなのでしょうか。
誰でも悩みやコンプレックスを持ち合わせていると思うので、そうしたものに寄り添う作品になると良いなと思いながら創作しています。
――― 先生ご自身に一番似ている(考え方・見た目などどのような点でも) と思うキャラクターは誰ですか。
それぞれのキャラクターに少しずつ自分の考えや感情が乗っているので、みんな似ているといえば似ています。ちなみに、好きなキャラクターは代々木ギンガです。反骨精神があって好きです。
――― 代々木くんの向上心と都会に対する飢え方の解像度の高さが新鮮でした。先生ご自身も地方から都会を見ておられたのでしょうか。
私自身も岐阜県出身なので、東京では若いうちからカルチャーに触れる距離が違うなと感じています。自分に何が向いていて何が向いていないか、早いうちから取捨選択できるのが羨ましく思っていました。
――― 先生はご自身の向き不向きについてどのようにお考えになったのでしょうか。
向き不向きは自分では取捨選択できなかったので、最終的には好きを貫いて今に至ります。
――― 代々木くんが歯の矯正をしていることが炭崎と対照的な印象でとても気になっています。もし設定の理由があるようでしたら教えていただいてもよいでしょうか。
世間一般で「これが美しい」とされているものに自分を合わせようとするギンガのキャラクターです。一見、自分がいる場所を最先端にする夢を持つギンガとは合わないと思われるかもしれませんが、ギンガの「都会で生きていく覚悟の強さ」として矯正を出しました。
――― 特に純が登場するときのモデル体型の雰囲気を漠然とカッコいいな~と受け止めています。何か工夫をされているところがあるのでしょうか。
実際のモデルさんのモデルウォークの写真を見て美しさは踏襲しつつ、漫画に映えるようなシルエット・絵にするよう心がけています。
――― モデルさんの美しさとマンガのキャラクターとしての映えにはどのような共通点を、あるいは共有の難しさを感じておられますか。
体にテンションがかかっている所の流れが美しくて画面映えすると思っていますが、絵として表現するのは難しいので、いつも苦労しています。
――― 月刊連載の中でも毎話のページ数を多く取っておられる連載だと思います。担当編集さんとの打ち合わせではどんな話をされているのでしょうか。
スプレッドシートにプロットを書いて、互いにそれを見ながら1ページ目から話し合いながら作っていっています。最初の展開から二転三転と変化することも多いです。
――― もしお話いただけるようでしたら、1巻の中で打ち合わせを通じて展開に変更を加えたところを教えていただけないでしょうか。
結構変わったりするので、正直、覚えていないです…。特に1話は10稿くらいしているので…。
――― 今作の制作で一番時間をかけているのはどの作業ですか?このページ数でいてキャラクターの服装や小物、背景にまで余念がないことに唸っています。
下描きです。特にメイク中の手などのデッサンに一番時間がかかります。
――― 「少年マガジンエッジ」は連載作品の扱う題材や読者層の幅がかなり広い雑誌という印象ですが、この雑誌での連載にあたって意識をされたことはありますか。エッジから『ブレス』が発表されたことにはすごくしっくりきました。
メイクになじみが薄い人でも楽しんでもらえるようなストーリーやキャラクターを心掛けました。また「マガジンエッジ」は絵が上手い作家さんがたくさんいらっしゃるので、見劣りしないように自分なりに頑張っています。
――― 先生が絵やマンガを描き始めたきっかけはどんなことだったのでしょうか。
親が共働きだったので、買ってもらったスケッチブックにずっと絵を描いていたのがきっかけです。
――― 描くものが絵から「マンガ」に変わったときのことを覚えているでしょうか。
小学生の時に友達とリレー漫画をやっていた時だと思います。自分の作ったキャラクターが他の人が作った世界で動くのが楽しかった記憶があります。そこでキャラクターが色んな世界で動いて物語を作っていく楽しさを知った気がします。
――― 創作に影響を受けたと感じる人物や作品はありますか。またそれはどんな点なのでしょうか。
漫画を好きになったきっかけは種村有菜先生の作品でした。漫画を描くきっかけになったのは『鋼の錬金術師』(荒川弘/スクウェア・エニックス) で、キャラクターが格好よくて自分でも描いてみたいと思いました。『シャーマンキング』(武井宏之/講談社) も好きで、熱量がありながらも、どこか達観したような雰囲気は自分自身の創作のベースになっています。
――― 種村有菜先生がマンガが好きになるきっかけなんですね。子供の頃は周囲にマンガが豊富にある環境だったのでしょうか。
両親がずっと「りぼん」を買ってくれていたので、漫画に触れる機会は豊富だったと思います。
――― いま連載で楽しんでいる連載作品(マンガ) があったら教えてください。
『ダンダダン』(龍幸伸/集英社) です。絵が上手いなぁ…と。しかも週刊…。
――― 原稿の息抜きにはどんなことをされていますか。
ジムへ行くことと観劇です。
――― 先生は植物を育てていたりするのでしょうか。重要なモチーフになった向日葵、ドライフラワー、またアイアの家の植木など作品の端々で植物がリッチに描かれていることが印象的です。
今は植物を育てていることはないのですが、植物には華やかさや生命力を感じるので、モチーフとしてよく出てくるのかもしれません。
――― お好きなコスメブランドがあればお聞きしたいです!
トム・フォードCelvokeが好きです。SUQQUの世界観も好きです。
――― 今作の資料としてよく見ている書籍(やカタログ) はありますか。
VOCE」と「ファッションプレス」です。「VOCE」は企画の切り口なども面白いです。
――― ヘアメイク業界に興味が湧きました。学校や現場の取材などもされたのでしょうか?印象に残った出来事はありますか。
「VOCE」の撮影現場を取材させていただきました。撮影ではヘアメイクさんをはじめ、モデルさん・カメラマンさん・衣装さん・編集者さんなど色んな人が関わってひとつのものを作り上げていく姿に熱を感じました。ヘアメイクさんに伺ったプロとして活躍し続けるために必要なことなども印象に残っています。2巻収録の7話で先生がアイアにプロの心得を語るシーンがあるのですが、そこは取材させていただいたことが大きく役立っています。あと、ヘアメイクのアシスタントさんの手際が良かったのも印象的でした。
――― 最後になりますが、はじめて『ブレス』に触れる読者の方に一言お願いできればと思います。
様々な立場の人が自分なりの楽しみ方で楽しんでいただければ嬉しいです。
園山ゆきの先生、ありがとうございました!
先生のイラスト表紙が目印のまんきき43号の頒布店はこちらで案内しています

「マンガは描き終わったら誰かに読んで欲しいし、感想を聞きたいな、と素直に思えるものでした。」まんきき42号『ホテル・インヒューマンズ』田島青先生インタビュー

mankiki42_cover

最高のホテルには条件がある。
「極上の食事」、「至高の癒やし」、「魅惑の娯楽」…
そして、“最新の武器手配”、“安心の身元詐称”、“完璧な死体処理”――!?

そのホテルの…「お客様は殺し屋様」。
もてなすのは決して『NOと告げない』コンシェルジュ。

死の境界線で語られる、インヒューマン(=人非ざるもの)・殺し屋たちの望みとは!?
いま鮮烈のキリング・ホテル・ドラマの幕が上がる―――!

殺し屋にも引けを取らない入念な準備によるストーリー構成
コンシェルジュにも遜色しない読者へのおもてなし
先生のマンガへの愛を御覧じませ

作品の試し読みはこちら!

――― 初連載&初単行本おめでとうございます!殺し屋たちの集まるホテルでお客様をお迎えするコンシェルジュという魅力的な設定の作品です。今作の着想のきっかけはどんなところだったのでしょうか。
ありがとうございます!この作品を始めてからたくさんの声をいただき感謝しています。着想のきっかけは担当さんとの2年半くらい前の打ち合わせです。いくつか持っていった作品案にピンと来ない雰囲気になっていたとき、ブースの窓から隣のビルの明かりが見えました。ふと地元のホテルが頭に浮かんで「ホテルのことも描きたかったな。メモだけ書いたけど作品案に入れ忘れたな」と思い出しました。人生でほとんどホテルに縁がなくその分「豪華なきらびやかな遠い世界」として憧れのようなものが私の中にあったんです。それで担当さんに「ホテルのことに興味があります」と伝えると、担当さんがしばらく間を置いて「ホテルと殺し屋はどうですか?」と反応をくれたんです。「殺し屋」の方のアイデアは私には無かったので驚いたのですが『LEON』が元々好きでしたし、直感的に面白そうだな思い具体的に考えてみることになりました。その時のことを担当さんに聞いてみると、私が昔に構想していた「平安時代に疫病が流行り、死が蔓延している世界」を膨らませたお話があるのですが、その時に「死のイメージ」について話していたことが印象的だったそうです。そこから得た「静かな死」と「華やかな生=ホテル」という部分を繋いだ提案だったと。ここから主人公が殺し屋だったりコンシェルジュだったりと色々なパターンを深掘りし、次の打ち合わせの時に「インヒューマンズ」という言葉を持っていった記憶があります。
――― 作品タイトルを際立たせる「インヒューマンズ」、作中ではここに”・”が加わることで両面的な意味合いを持っていてすごくハマっているワードだと感じました。
いまパソコンの履歴を見てみると、担当さんとの始めの打ち合わせのあとに『ホテル・アサシン・トウキョウへようこそ(仮)』というメモが残っていますね。たしか、ここからアサシンなどの直球のワードではなくて、何か違うもの、新しいものがないかな、と調べていった形です。「殺し屋」から連想されるワードを繋いでいくうちに、「非人間的な」→「インヒューマンズ」に辿り着いて、次の打ち合わせで『インヒューマンズ・ホテル』というタイトル案を持っていったら、担当さんの反応が良かったのを覚えています。最終的に語呂の良さなどから、順番をひっくり返した、いまのタイトルに落ちつきました。タイトルから派生してつけた作中のホテル名ではあるのですが、「ホテル・イン・ヒューマンズ」と”・”を1つ加えています。英語的には変な言いまわしになってしまうのは分かっているのですが、「人間」という言葉をどこかで強調できればと思って、と。まあ、でもダジャレ的な発想に近いかもしれませんね。
――― 連載となってからはどんな打ち合わせをされているのでしょうか。
ケースバイケースではありますが「どんな殺し屋の話にしようか?」が基本のスタートラインな気がします。私自身が色々な人を描きたいと考えていて、年齢・セクシャリティ・生い立ち……などを打ち合わせで掘っていって、今回描く人のドラマを見つけていく感じです。そこが根っこにあるので、構成や演出、エモーショナルにするためのアイテムだったりなどは、極論を言ってしまえば後から足し引き出来るものと考えているのかもしれません。その分だけトライ&エラーを最後まで繰り返して、なんとか読者までドラマが届くものに仕上げたいと四苦八苦しています。
――― 先生が「殺し屋」や「ホテル」と聞いてイメージする作品は何ですか。
「殺し屋」と聞いてイメージするのは前述の通り映画の『LEON』(監督:リュック・ベッソン) です。哀しい終わりだけど希望があるというか。「ホテル」と聞いてイメージするのは映画の『グランド・ホテル』(監督:エドマンド・グールディング) です。原初の群像劇として「グランド・ホテル方式」という言葉になるくらいの作品です。超高級ホテルで様々な背景をもつ宿泊客と、その人たちが繋がっていく様相が好きというか、とても興味があります。大学時代に一度卒業論文のモチーフにしようかと考えていたことを思い出しました。
――― 番外編である「オフ・ザ・ヒューマンズ」からもキャラクター作りに対する先生の熱意を感じています。登場するキャラクターたちにはどのぐらい設定を準備されているのでしょうか。
この作品は今の形になるまでに何回か仕切り直しをしており、特に主役の2人はその試行錯誤の中で組み上がっていったように思います。作画のタイミングで「あ、こういう人なのかな?」と気付くことも多いです。表情や感情的な部分は描いて初めてわかるというか、描くことで自分の中で同時進行的にキャラか出来てくる感覚が近いかもしれません。
――― 夫婦愛であったり子守唄の存在であったり、一話一話に配された題材がドラマを生んでいて物語に惹き込まれます。お話の構成はどのように考えておられますか。
まずこの作品をつくるにあたって「殺し屋」のことを考えました。いまの日本の年間行方不明者数だったり、歴史に登場する殺し屋だったり、ナチスに対するレジスタンスに実在した殺し屋の話であったり。そうした中で「殺し屋が普通にまぎれて存在する」方が、自分の中でのリアリティとして自然だと感じるようになりました。そこを下支えとして、たとえば夫婦を描く時は「完璧主義の殺し屋はどんな生活なんだろう?配偶者はそのことを知っている?それとも知らない??」とドラマ部分をふくらませています。そこに同時並行してこの作品ならではのホテルサービスとの掛け算について「子守唄」「ダイイング・サービス」「花言葉」など各エピソードを盛り上げるポイント作りを意識しながら頭を悩ませています。
――― 個人的にすごく刺さったのがrequest.1での「19個の子守歌」という設定でした。民俗とお話のスイッチとが上手く繋がれていて驚いたのですが、この回の構成はどのように練られたのでしょうか。
一番始めは「殺し屋と小さな男の子が出会い、殺し屋がその子からピアノを習う話」を考えていました。しかし打ち合わせの中で1話目としての難しさを感じ、もう少し兄弟姉妹のような親しい関係性を描く方がいいなと考えて「子守唄」のアイデアを出したと記憶しています。また1話目は「沙羅のアクションの派手さ」に対する「生朗の頭脳プレイ、情報収集・操作」のバランスをどう見せていくかも悩みどころでした。謎解きシーンとしての見せ場が映えるように、子守唄のアイデアを膨らませながら「厳しい環境の生い立ち」や「19個の制限=その土地柄での希望の表れ」などの設定、そしてそれらを伏線に落とし込む……などの作り込みに苦心しました。こう書くと色々と計算立てて作られたように感じるかもしれませんが、行き詰まっては担当さんと打ち合わせを繰り返して試行錯誤の連続で毎話作っています。特に構成については、そのエピソードが最大限にエモーショナルになるように。それこそ作画を仕上げた後の最後の最後に構成を組み替えるときもあります。
――― 構成の練り込みにすごい力の入れようを感じます。日の目を見なかったページもたくさんありそうな・・・。連載作品がある生活には慣れられましたか。
日の目を見なかったページはたくさんありますね。使わなかったところも別のタイミングで物語のヒントになったり、キャラの感情を描く下地になったりと後で活きてくることがあって無駄ではないものと考えています。連載生活に慣れたかというと分かりません。打ち合わせ・ネーム・作画と日々やることが常に目の前にあって毎日を必死に生きている感じです。回を追うごとにバタバタしています…。 連載前は外でネームを描くこともありましたが、コロナウイルスの流行からなかなかそうもいかなくなり今はネームも作画も専ら自室でやっています。気分転換に部屋の窓を空けながらすることが多いですね。元々夜型なんですが作業が佳境になる深夜から明け方が一番集中しているかもしれません。
――― 沙羅と生朗はこのホテルで何代目のコンシェルジュにあたるのかが気になっています。物語の大きな展開については現時点である程度決めておられるのでしょうか。
何代目なんでしょうね?ホテル自体はそれなりの年月を経た建物として考えていますが、自分でもはっきり決めてはいない部分も多いです。物語の大きな展開も考えていることはあるのですがそれを不変のものとはしておらず、描いていくうちに変わったり見えてきたりするだろうと思っています。描いていくうちに2人の解像度が自分の中であがっていき、それによって物語も揺れていくのかなと思います。
――― はじめての連載作品として意識されていることはありますか。
読んだときの感情はそれぞれの心の中で生じるものだと考えています。もちろん自分が狙って描いている感情というものはあるのですが、それはあくまで自分のもので読者とイコールになるとは限らないと思っています。だからこそ話の流れや状況が読者に極力伝わる形になるようにギリギリまでページ構成を組み直しています。
――― 殺し屋にとって重要な武器ですがこだわっている部分があれば教えてください。
各キャラのイメージが先にあります。実用的なものを好むタイプか、装飾があるものが好きか、など。たとえば、1話目のシャオに関しては殺し屋になったきっかけの日に手にした拳銃をずっと使っています。「これ一つで生き抜いてやる」という彼の意志のようなものを感じていて。また沙羅の髪飾り式のナイフは連載準備中からこの形で行こうと思っていました。「沙羅は踊るように、舞うように闘って欲しい」という担当さんからの声もあり、体全体を使ったアクションに合うように、片手でおさまるなるべく小さい武器としてセレクトしました。あと、髪飾りをナイフにするときに、バサーっと広がる髪の演出も大事にしています。ナイフと髪はもうセットですね。そうした部分を含めて「沙羅の全体のシルエットが様になる」ことを意識しています。そんなイメージを元に設定や資料などを私が用意し、武器の作画はアシスタントさんにお願いしています。
――― カラーイラストの鮮やかな色彩やグラデーションを楽しんでいます。こういった色使いには何か原体験みたいなものがあるのでしょうか。
今のところこれしかできないのが正直なところです。この作品を描くまで漫画のカラー絵を描いたことがほとんどありませんでした。学生時代は水彩画や日本画を描いていたのですが、それをデジタルでやってみたらこうなったという形です。作画に追われていくうちにデジタルでのカラー塗りなどを勉強する時間もなくなり、気付けばもうカラーを描かないといけない時が来まして……。唯一知っている方法で乗り切った感じです。
――― 水彩画や日本画を経てということでしたが、そこでの経験とマンガとの間に感じる共通点や、逆にマンガならではと思う点はありますか。
油絵などの西洋の「面で絵をとらえる」絵画に対して、日本画の墨で輪郭線を引く「線で絵をとらえる」部分がマンガと共通しているかもしれません。高校一年生のときはじめての美術の授業で菊の花のスケッチを描いたのですが、私の絵を見た先生に「あなたは線の人ね」と言われたことを思い出しました。その一言だけだったので先生の真意は分からないのですが、その意味に適う人にこの先なれたらいいなと少し思います。
あと私の中で絵画は人に見せなくて満足する、自分で描き終わって満足する、どこか自己完結するものだったのに対して、マンガは描き終わったら誰かに読んで欲しいし、感想を聞きたいな、と素直に思えるものでした。そこが、自分の中で大きく違う部分かもしれません。
――― 先生がマンガ制作で使っている道具を教えてください。
アナログ作画はGペン、ミリペンを使って、紙はコピー用紙を使っています。インクは墨汁です。スキャンで取り込んで仕上げはデジタル(クリスタ) です。大コマやしっかり描きたいところはアナログ作画、時間的な制約の中で、小さいコマはデジタル作画にすることもあります。
――― 先生が作品作りに影響を受けたと感じるマンガはありますか。
BLACK LAGOON』(広江礼威/小学館/サンデーGX)
元々大好きなのですが、今回の作品を描くにおいて改めて意識的に読んでいます。主人公のロックが普通の社会から巻き込まれる形で裏社会にいき、自分なりの正義や悪を定めていく部分は生郎を描く上での参考にしています。
シュトヘル』(伊藤悠/小学館/月刊!スピリッツ)
高校生のときに『皇国の守護者』(原作:佐藤大輔 作画:伊藤悠/集英社/ウルトラジャンプ) に出会い、とにかく絵のかっこよさに痺れました。その後に読んだ『シュトヘル』で描かれた「登場人物たちの生き様」に憧れました。なによりキャラクターに対してのシビアさと愛情が共存していて。ただのファンですね。
ヒカルの碁』(原作:ほったゆみ・漫画:小畑健/集英社/週刊少年ジャンプ) と『魔神探偵脳噛ネウロ』(松井優征/集英社/週刊少年ジャンプ)
バディの形として、という意味だとこの2作品でしょうか。非凡なキャラクターの導きによって一見平凡なキャラクターが影響を受けて変化していき、気付けば非凡なキャラクターに影響を与える存在となるのが好きです。サラと生郎の関係性にどこか繋がっているかもしれません。
バイオレンスアクション』(浅井蓮次・原作:沢田新/小学館/やわらかスピリッツ)
この作品を読むことで、殺し屋が日常にいる温度感はクリアになった感じがします。最近ですと映画の『ベイビーわるきゅーれ』(監督: 阪元裕吾) で同じ温度感を感じました。
――― ウェブ上での連載と並行して「サンデーGX」にも掲載されるという珍しいパタンになりました。紙の雑誌に載っていることを見ての感想や印象などはありましたか。
素直に「すごく嬉しいな」と思いました。2話目のときの方が「わー、自分の漫画が載っている」という気恥ずかしさとか、そうした気持ちが新鮮に感じられたかもしれません。1話目は完成まで作画にもすごい時間がかかり、何度も何度も見直したときの自分の感覚が思い出されてどうしてもまたチェックをしている感じが強かったです。
――― いま読者として熱を上げている連載作品(マンガ)があったら教えてください。
女の園の星』(和山やま/祥伝社/フィールヤング)
星先生や周りの先生たちもさることながら、あの生徒たちのリアリティや絶妙なかわいらしさが最高です。
北北西に曇と往け』(入江亜季/KADOKAWA/青騎士)
新しい話を読みたいな、といつも待機しているといえば、この作品ですね。読者として大好きな作品はまだまだたくさんあるのですが、このあたりにて。
――― 2018年夏「マンガワン 新・月例賞」でのデビューまではどのようなな制作活動を、またデビューからこの連載までにはどのようなことに取り組まれていましたか。
デビューまでは友人とショート漫画をコミティアに出していました。漫画を描き始めたのは大学に入ってからだったので、すぐに就職活動をすることになってしまいました。就職してみるとコミティアに新作を描いていく余裕がなくどっちつかずとなり……。ちゃんとマンガを描こうと決めて雑誌の「ヒバナ」(小学館) の新人賞に投稿しました。それまでの持ち込み経験を思い返してみると少年誌に持ち込みをすると「少女誌っぽい」と言われ、少女誌に持ち込みをすると「少年誌や青年誌っぽい」と言われていました。そんな中で当時出たばかりの「ヒバナ」の創刊号を読んで並んでいた先生方の顔ぶれや題材(歴史・セクシャリティ・ギャグ・ラブロマンス…etc) からここなら何か合う部分があるのでは?と感じたのが投稿のきっかけだったと思います。その「ヒバナ」で担当さんがつき、元々の投稿作に修正したのがマンガワンの月例賞でデビュー作となった『放課後の隣人』です。(※担当さんの社内異動に合わせてマンガワンに出す形となりました)
デビューした後は「疫病が流行り、死が蔓延している平安時代」を題材にした連載企画を1年ぐらい練っていました。しかしこれが行き詰まってしまい、自分の中で当時の担当さんに中々連絡が取りづらい気持ちになっていました。そこで色々な意見を聞いてみようとコミティアの出張編集部に持ち込みをしてみたところ、今の担当さん(その時はスピリッツ編集部所属) から「一緒に新作を作りませんか?」とお話をいただき、そこから『ホテル・インヒューマンズ』を考え始める流れとなります。ただそこからも物語に落とし込む試行錯誤が続き、連載が決まるまで1年半くらいかかりました。その間に担当さんの社内異動も重なって最終的に「サンデーうぇぶり」での連載となりました。
――― マンガを描き始めたのは大学に入ってからとのことでしたが、何かきっかけはあったのでしょうか。
明確なきっかけというものではなく「それまでの流れ」の着地に近いと思います。小さな時は漫画家になりたかったのですが、高校で絵を勉強していくうちに周りの才能の凄さを目の当たりにして「とてもじゃないけどなれないな」と思うようになっていました。その体験から自分一人の力で出来ることよりも多くの人が携わって出来上がる映像の世界に興味を持つようになったのですが、自分から周りに積極的に働きかけていく性格ではなかったりと今度は多くの人で作る大変さに大学に入ったときにぶつかってしまいました。自分の中に「映像にしたいな」と思っていた企画があったのですが、漫画なら自分一人で監督・脚本・演出・キャストのすべてが作れる、これを形にするとしたら漫画だなと回り回って着地したのを覚えています。
――― 最後になりますが、はじめて作品に触れる読者の方に一言お願いできればと思います。
すこしでも楽しんでもらえたら嬉しいなと思っています。読んでもらえるだけで、時間を使ってもらえるだけで嬉しいです。キャラでもセリフでも何でもいいので、そこから少しでも好きになってもらえる部分を感じていただけたら幸いです。
田島青先生、ありがとうございました!
先生のイラスト表紙が目印のまんきき42号の頒布店はこちらで案内しています

「そこに意図的な”嘘”が生まれて、外連味のある画になる気がしています。」まんきき41号『思えば遠くにオブスクラ』靴下ぬぎ子先生インタビュー

火事で住居を失った28歳のフリーカメラマン・片爪。引っ越しを余儀なくされた彼女が次に住むと決めた場所はドイツで…?特に大志もなく、フラリと海外移住した彼女はどうなってしまうのか。主人公と同じくドイツに移住した著者が描く海外移住物語。ドイツでの日本人の生活やごはん事情が盛りだくさん、読めばプチ旅行気分を味わえます。

“ここ”じゃなくても自分がある
だからどこにだって行ける
そんな風に世界を楽しめたらいいなぁ

作品の試し読みはこちら!

――― 『ソワレ学級』(徳間書店/コミックリュウ) から久しぶりの単行本刊行となりました。今作の主人公がふらりとドイツに移住したのと同様、先生ご自身も海外に移住されていたとのことで驚きました。どんないきさつだったのでしょうか。
主人公の亜生と同様に、私も戯れ移住です。一度は海外に住んでみたいなとは思ってはいました。丁度、『ソワレ学級』の連載終了がワーキングホリデービザの年齢制限のギリギリだったこともあって、そのタイミングで移住しました。
――― またマンガの執筆をというお考えはあったのでしょうか。
機会があればやりたいなと思っていました。
――― マンガを通じて異国の街を観光しているような楽しさがあります。何か先生の工夫があるのだと思うのですが・・・。
移住ものは異国情緒が大切なので、建物の外装はもちろんですが内装の建具や小物がよりそれを担保するはずなのでそのあたりを気を付けました。亜生達の住んでいる家は、自分の住んでいたアパートや友達の家を参考にして3Dで作って、そこから作画していました。あとはそれらを描くために作画のカロリーを出来るだけあげることですね。
――― 建物や風景、陰影の描写にすごく楽しさを感じます。特に初読時に魅力的に感じた、1話ベルリンテーゲル空港の作画工程について教えていただけないでしょうか。正確に見えながら「マンガっぽい!」と惹かれるところに不思議を感じています。
テーゲル空港を含めた作中で出てきた場所は、資料用に使うので、できるだけ自分で写真を撮りに行ってます。とはいえ、なかなか一枚の写真で背景として完璧なものは撮れないので、複数の写真を合成して下絵に使い、そこからトレースをしました。なので、よくみるとパースが合ってないところがあるんです(テーゲル空港だとバスとかですね)。個人的な意見ですが、あえて見せたいところのパースをずらすと、そこに意図的な”嘘”が生まれて、外連味のある画になる気がしています。その外連味から読者の人が意図を感じてくれて、「漫画っぽい」となるのではないでしょうか。

まんきき41_引用その1

――― 主人公はスコットランドのエジンバラなど色々な土地に足を運びます。様々な都市をご覧になるなかでベルリンのベルリンらしさを感じるところがあれば教えて下さい。
道幅が広くて、近代的な建物がちゃんとまっすぐ建っているところ。よい意味で、地味で暗い雰囲気の街並み。ラフな恰好でゆるい感じの人びと。
――― 料理や食事のシーンもすごく美味しそうに描かれています。
作れるものは自分で作って、トレース用の素材にします。 コントラストを上げると美味しそうに見えるので、出来るだけベタ面を入れるようにしました。1話で出てきたケバブはよく食べました。安いし、どこにでもあるし、大抵美味しい。ベルリンのケバブは、日本で売ってるケバブの1.5~2倍くらいの量があって、ひとつで満腹になります。5話で出てきたトルコマーケットにも自転車で10分圏内だったのでたまに行ってました。ジンジャエールは夫が好きでよく作ってました。わたしは同じスパイス屋さんでクミンやコリアンダーを買ってカレーを作ることが多かったです。

まんきき41_引用その2

――― 海外での執筆活動で不便だと感じること、逆に便利だと感じることはありますか?
不便なこと:以前は23時までやってるWi-Fiと電源があるカフェがないことだったんですけど、コロナ禍になってそれも変わってしまいましたよね。今はそんなに変わらないと思います。便利なこと:住んでるだけである程度ネタになること
――― 片爪さん・石根さん・王子さんといった登場人物たちが纏う雰囲気やその人らしさも今作の魅力です。皆さんモデルになった方などいるのでしょうか?
特にモデルとなる人物がいるわけではないです。プロットの段階で主人公・片爪の性格が決まったので、そこからバランスをみて考えました。
――― 生きる場所を自分で決めていく/決められる、という姿に憧れを持ちます。『ソワレ学級』の登場人物たちにも繋がっているテーマだと思います。先生にとってこれまで転機になったのはどんなことがあったのでしょうか。
私の通っていた高校は平成に作られた東京都の実験校のひとつで、無学年制の単位制、自由主義かつ個人主義な校風でした(『ソワレ学級』の舞台の下敷きにしています)。学校や教師、親からも干渉されることなく、履修科目も何年かけて卒業するのかも、ほとんどすべてを学生が判断して決めていました。中にはこの自由すぎる学校が合わない人もいましたが、私にはすごく合っていて。10代のときに自由主義思想強めの学校で生活したことが、その後の価値観にもつながっているのだと思います。
――― 先生が作品作りに影響を受けたと感じているマンガはありますか?
小さい頃一番読んだ漫画は、川原泉先生の作品です。少し俯瞰した視点で描かれるストーリーと、それを通して感じる高くも低くもない一定の温度感がものすごく好きでした。何度読み返しても新しい面白さがあって、強度のある作品ばかり。作品タイトルもどれもこれもお洒落で、時間が経っても素敵だなぁと思います。大人になってから感銘を受けたのは、豊田徹也先生の作品です。特に『アンダーカレント』(講談社/アフタヌーン) は好きすぎて、人に布教で配ったりして、結局3冊くらい買いました。流れるようなコマ割り、味のあるキャラクター、隙のない作劇、美しい漫画だなと思います。
――― 移住に際して、手放さず一緒に連れてきた本があったら教えて下さい。
ベルリンに引っ越す時、手持ちの本はほとんど裁断して電子化したのですが、どうしても切れない本がいくつかあって、それを実家用の段ボールに詰めました。実際、パッキングしてみたら、1、2冊くらいなら入りそうな余裕があったので、ネームの手助けになりそうな『マンガの創り方 誰も教えなかったプロのストーリーづくり』(山本おさむ/双葉社) と、その近くにあった『瞳子』(吉野朔実/小学館) が目に入って、直観的に手に取ってトランクに詰めました。『マンガの創り方』は商業連載をはじめたころに手に入れた本。作劇術の本はたくさんありますが、装丁もソリッドなので置いてて嫌じゃないですね。高橋留美子先生の短編漫画も参作として載っていて、それも好きです。『瞳子』は大学生の頃に友人に勧められて買った本。淡々とほどよい緩急で進む物語、清涼感のあるオチに相反したちょっとした後味の悪さがたまらなく好きです。祖父江慎さんと芥陽子さんの装丁もかっこいい。
――― いま読者として熱を上げている連載作品(マンガ) があったら教えてください。
最近のものは読めていないのですが『らーめん再遊記』(久部緑郎・河合単・石神秀幸/小学館/ビッグコミックスペリオール) は追って読んでいます。漫画じゃないものだと最近は『三体』(劉慈欣・立原透耶・大森望・光吉さくら・ワンチャイ/早川書房) を買って読み始めました。
――― ドイツではどんなマンガを見かけますか?ドイツならではの流行りものはあったりしますか?
すみません、ちょっと疎くて。3年前くらいに行ったベルリンのLittle Tokyoという本屋さんにドイツ語訳されている日本の漫画は置いてありましたね。
――― 語感がすごくよいタイトルはどのようなプロセスで決まったのでしょうか。
ダジャレに強い友人たちとブレストをして決めました。オブスクラという単語をいれることを軸に、
「見知らぬオブスクラ」
「はじまりはオブスクラ」
「おなかがオブスクラ」
「どこのドイツのオブスクラ」
「思えば遠くにオブスクラ」
っていう案に絞られて、最後はわたしの独断で決めました。「見知らぬ…」が安牌かなあと思ったんですが、内容を伝える事を犠牲にしても語感の良さや引っ掛かりを優先したかったので、友人案の「思えば遠くにオブスクラ」にしました。
――― この後すぐに発売となる下巻収録予定15話での演出が非常に印象に残りました。「表現できる」と捉えられたことに不思議を感じるというか・・・とにかくカッコいいです。これは実体験から得た着想なのでしょうか。
1冊の本の中で1話くらいは、演出に軸足を置いた回があると全体が引き締まるかなと思っていて(上巻だと7話の石根の仕事の回とか)。3Dソフトのカメラをグルグルまわして構図を決めることが多く、レンズを通した視点があるといいかもなと思いついて。撮影者と被写体の関係性は、神視点のカメラで描くよりも、撮影者のカメラそのままで描いた方がダイレクトに伝わりそうだったので採用しました。作画カロリーも低いアイデアだったので挑戦しやすかったってのも本音です。
――― 今作の中で作画カロリー高かったなぁと思い返すのはどのシーンですか?
特定のどこというよりも全体を通してカロリー高めだったのできつかったです。下巻の150pから154pのシーンはカロリー自体は低かったのですが、苦手とする抽象的な描写が必要だったので頭を抱えました。雑誌に載せたものがいまいちしっくりこなかったので、単行本修正の時に大幅に手を入れました。
――― 先生の原稿後の癒やしがあったら教えて下さい!
ひたすらに寝ることです。
――― また下巻では登場人物たちの内側にグッと迫るような、ドキドキする回に引き込まれていきます。今作ではこの3人の着地というのは最初から決めて進めておられたのでしょうか。
オブスクラは、連載開始時は3話確約だったんです。連載中に、5話、7話…と伸びていったので、じゃあ本を想定して縦軸をちゃんと作ろう、と。そのあたりから着地をぼんやり見据えて全体の構成を考えていきました。主人公・片爪の内面の問題を描くために、石根の関係性だけではなく、後輩の王子からの視点や下巻に出てくる洋子との出来事を入れ込みたかったんです。
――― 連載は無事に完結となりました。次回作を楽しみにしていますが、もう取りかかっておられるのでしょうか。
取りかかってはいないですが、構想はいくつかあります。やらせて頂けるなら、描いたことないジャンルに挑戦してみたいです。とはいえ、インプット不足なのでとりあえず色々摂取したいですね。3Dももっと勉強したいですし、アニメーションや他の領域も触ってみたいなと思います。そのための作業用のPCも限界を感じるので新しく組みたいです。
――― 慣れてもきたとも思う海外暮らしですが、この先の生活について何となくお考えのことがあれば教えてください。
決めてないです。嫌でもいつかビザの関係で決めなきゃいけない時がくるので、その時まではぼんやりしてようと思っています。
――― 最後になりますが、はじめて『思えば遠くにオブスクラ』に触れる読者の方に一言お願いできればと思います。
Twitterの告知の仕方に問題があったのかもしれないですが、このお話を実録エッセイと思われる方がいるみたいで…。あらゆる体験がベースにはなっていますが、基本はフィクションの物語です。おたのしみください。
靴下ぬぎ子先生、ありがとうございました!
先生のイラスト表紙が目印のまんきき41号の頒布店はこちらで案内しています