元モデルの宇田川アイアは、メイクアップアーティストになる夢を持っていたが、周りから否定されることを恐れて夢を諦めていた。ある日アイアは、顔のそばかすを隠すように背中を丸めている大人しい女の子・炭崎純と学園祭のコンテストに出場することになった。衣装・ヘアメイクを担当するスタイリスト役とモデル役の2人1組でランウェイを歩くコンテストで、アイアは炭崎にメイクをすることに。炭崎とのやり取りの中で教室では見せない魅力を炭崎に感じたアイアは、メイクで炭崎の魅力を引き出し学園祭に挑む。
――― 1巻発売まもなくの重版おめでとうございます!書店としても今年のスマッシュヒットだと見ていますが、先生自身はこの反響をどのように受け止めておられるでしょうか。
大変ありがたく思っております。ファンレターをいただいたりSNSでの反応を見ることが励みになっています。
――― 学園祭のステージをきっかけに大きな転換を迎える宇田川アイアと炭崎純のキャラクター、そしてその二人を結びつける「メイク」の面白さと、読みどころの詰まった1話でした。今作の着想のきっかけ、またその中からこの1話というのはどのように作り上げたものだったのでしょうか。
もともとメイクは描きたい題材でした。1話に関しては、女の子が男の子にキスをするシーンがまずあって、メイクで内面や行動がどう変化していくのかを念頭に置きつつキャラクターを考えていきました。
――― 先生の身近にもファッションやメイクがあったのでしょうか。
ファッションやメイクは自分の気持ちを盛り上げてくれるので好きです。特にメイクはイベントがあると足を運んだりしていました。
――― 先生自身がメイクに興味をもつようになったきっかけはどんなことだったのでしょうか。特にステージメイクについてはなかなか縁がなくて。
元々キラキラしたものが好きで、小学生の頃から100円均一のお店のコスメ売り場を見ていました。ファッションショーのメイクなんかは個性が際立っていて見ていて楽しいです。
――― 先生がはじめてメイクをしたときのことを覚えていらっしゃいますか。
あんまり覚えていないです…。でも、初めてコスメ売り場のカウンターでメイクをしてもらった時には凄くワクワクしました。プロの手でやってもらうと仕上がりが全然違うと感じました。
――― 自分の人生にすごく前向きになれるような、自分で自分を肯定する意志を感じるセリフが今作の大きな魅力の一つです。一方でキャラクターたちがぶつかる壁や悩みにもすごくリアリティを感じています。先生自身、何か心に留めている指針のようなものをお持ちなのでしょうか。
誰でも悩みやコンプレックスを持ち合わせていると思うので、そうしたものに寄り添う作品になると良いなと思いながら創作しています。
――― 先生ご自身に一番似ている(考え方・見た目などどのような点でも) と思うキャラクターは誰ですか。
それぞれのキャラクターに少しずつ自分の考えや感情が乗っているので、みんな似ているといえば似ています。ちなみに、好きなキャラクターは代々木ギンガです。反骨精神があって好きです。
――― 代々木くんの向上心と都会に対する飢え方の解像度の高さが新鮮でした。先生ご自身も地方から都会を見ておられたのでしょうか。
私自身も岐阜県出身なので、東京では若いうちからカルチャーに触れる距離が違うなと感じています。自分に何が向いていて何が向いていないか、早いうちから取捨選択できるのが羨ましく思っていました。
――― 先生はご自身の向き不向きについてどのようにお考えになったのでしょうか。
向き不向きは自分では取捨選択できなかったので、最終的には好きを貫いて今に至ります。
――― 代々木くんが歯の矯正をしていることが炭崎と対照的な印象でとても気になっています。もし設定の理由があるようでしたら教えていただいてもよいでしょうか。
世間一般で「これが美しい」とされているものに自分を合わせようとするギンガのキャラクターです。一見、自分がいる場所を最先端にする夢を持つギンガとは合わないと思われるかもしれませんが、ギンガの「都会で生きていく覚悟の強さ」として矯正を出しました。
――― 特に純が登場するときのモデル体型の雰囲気を漠然とカッコいいな~と受け止めています。何か工夫をされているところがあるのでしょうか。
実際のモデルさんのモデルウォークの写真を見て美しさは踏襲しつつ、漫画に映えるようなシルエット・絵にするよう心がけています。
――― モデルさんの美しさとマンガのキャラクターとしての映えにはどのような共通点を、あるいは共有の難しさを感じておられますか。
体にテンションがかかっている所の流れが美しくて画面映えすると思っていますが、絵として表現するのは難しいので、いつも苦労しています。
――― 月刊連載の中でも毎話のページ数を多く取っておられる連載だと思います。担当編集さんとの打ち合わせではどんな話をされているのでしょうか。
スプレッドシートにプロットを書いて、互いにそれを見ながら1ページ目から話し合いながら作っていっています。最初の展開から二転三転と変化することも多いです。
――― もしお話いただけるようでしたら、1巻の中で打ち合わせを通じて展開に変更を加えたところを教えていただけないでしょうか。
結構変わったりするので、正直、覚えていないです…。特に1話は10稿くらいしているので…。
――― 今作の制作で一番時間をかけているのはどの作業ですか?このページ数でいてキャラクターの服装や小物、背景にまで余念がないことに唸っています。
下描きです。特にメイク中の手などのデッサンに一番時間がかかります。
――― 「少年マガジンエッジ」は連載作品の扱う題材や読者層の幅がかなり広い雑誌という印象ですが、この雑誌での連載にあたって意識をされたことはありますか。エッジから『ブレス』が発表されたことにはすごくしっくりきました。
メイクになじみが薄い人でも楽しんでもらえるようなストーリーやキャラクターを心掛けました。また「マガジンエッジ」は絵が上手い作家さんがたくさんいらっしゃるので、見劣りしないように自分なりに頑張っています。
――― 先生が絵やマンガを描き始めたきっかけはどんなことだったのでしょうか。
親が共働きだったので、買ってもらったスケッチブックにずっと絵を描いていたのがきっかけです。
――― 描くものが絵から「マンガ」に変わったときのことを覚えているでしょうか。
小学生の時に友達とリレー漫画をやっていた時だと思います。自分の作ったキャラクターが他の人が作った世界で動くのが楽しかった記憶があります。そこでキャラクターが色んな世界で動いて物語を作っていく楽しさを知った気がします。
――― 創作に影響を受けたと感じる人物や作品はありますか。またそれはどんな点なのでしょうか。
漫画を好きになったきっかけは種村有菜先生の作品でした。漫画を描くきっかけになったのは『鋼の錬金術師』(荒川弘/スクウェア・エニックス) で、キャラクターが格好よくて自分でも描いてみたいと思いました。『シャーマンキング』(武井宏之/講談社) も好きで、熱量がありながらも、どこか達観したような雰囲気は自分自身の創作のベースになっています。
――― 種村有菜先生がマンガが好きになるきっかけなんですね。子供の頃は周囲にマンガが豊富にある環境だったのでしょうか。
両親がずっと「りぼん」を買ってくれていたので、漫画に触れる機会は豊富だったと思います。
――― いま連載で楽しんでいる連載作品(マンガ) があったら教えてください。
『ダンダダン』(龍幸伸/集英社) です。絵が上手いなぁ…と。しかも週刊…。
――― 原稿の息抜きにはどんなことをされていますか。
ジムへ行くことと観劇です。
――― 先生は植物を育てていたりするのでしょうか。重要なモチーフになった向日葵、ドライフラワー、またアイアの家の植木など作品の端々で植物がリッチに描かれていることが印象的です。
今は植物を育てていることはないのですが、植物には華やかさや生命力を感じるので、モチーフとしてよく出てくるのかもしれません。
――― お好きなコスメブランドがあればお聞きしたいです!
――― 今作の資料としてよく見ている書籍(やカタログ) はありますか。
――― ヘアメイク業界に興味が湧きました。学校や現場の取材などもされたのでしょうか?印象に残った出来事はありますか。
「VOCE」の撮影現場を取材させていただきました。撮影ではヘアメイクさんをはじめ、モデルさん・カメラマンさん・衣装さん・編集者さんなど色んな人が関わってひとつのものを作り上げていく姿に熱を感じました。ヘアメイクさんに伺ったプロとして活躍し続けるために必要なことなども印象に残っています。2巻収録の7話で先生がアイアにプロの心得を語るシーンがあるのですが、そこは取材させていただいたことが大きく役立っています。あと、ヘアメイクのアシスタントさんの手際が良かったのも印象的でした。
――― 最後になりますが、はじめて『ブレス』に触れる読者の方に一言お願いできればと思います。
様々な立場の人が自分なりの楽しみ方で楽しんでいただければ嬉しいです。
園山ゆきの先生、ありがとうございました!
先生のイラスト表紙が目印のまんきき43号の頒布店はこちらで案内しています
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