私のマンガはなぜ売れないのでしょうか?
お勤め先:マンガ家の方からのどストレートなご質問をありがとうございます。
書店員の目線とは少し離れますので、自店の立場を離れて「一雑誌読者」としての狭い了見から考えているところを申し上げたいと思います。
「マンガが売れる可能性」ということについて、大前提として「あなたのマンガを知らない人はそのマンガを買うことができない」ことから、私は下記のように少し乱暴にモデル化をして考えています。
あなたのマンガの売れ数
≒[(あなたのマンガを知っている人の人数=N) * m%] + あなたの固定ファン
逆説的ですが、固定ファンは「あなたの単行本が出たら買う人」として積み重ねてきた実績すなわち定数であるとします。
そうするとこのモデルには2つの変数が含まれることになります。
①あなたのマンガを知っている人の人数 = N
②あなたのマンガを知ってくれた人が何人買うか、である打率 = m
短期的にはNとmを増加すること、長期的には固定ファンを増加させていくことがあなたのマンガが売れるようになるための施策の出口です。
このモデルの乱暴なところは下記のように考えている部分です。
「あなたのマンガを認知している人の総和にたいして、その媒体がマンガ雑誌であろうとTwitterであろうとLINEマンガであろうとpixivであろうと固定m%しか購入者はいないという仮定」
と、エクスキューズしながらもこのモデルが現状機能しているように思われるのは下記の理由です。
「媒体によって施策を変えることで打率m%のメリハリを出すことは可能かもしれないが、現状それをやるに足るセグメントを媒体側が十分な数で確保・誘導できていないため単純にNを増加していく施策を取るほうがコストが低く効率がよさそう」
「そもそもあなたの作品は概ねある雑誌に載せることを前提に作られているので、セグメントに特化してm%を求める作品を作るということをやりにくい(というかマンガ雑誌が売れてないのでいまはNを増やしてくれる雑誌編集部が強いのでは)」
ではNとmの増加に何ができるのか、ということが回答となります。
[Nの増加について]
(1)
作者個人ができることは主にSNSでの発信になるかと思われます。主にTwitter、Pixiv、Tumblrあたりが発表場所になるでしょう。
特に昨今では1枚のイラストの流通性が高いため「ある流行りモノの作品の二次創作でグッときたイラストを描いている人がマンガも描いている」という認知は多いように思われます。
あえて目標とするならば1日1枚何かのイラストを発信し、そこにはきちんと署名やTwitterアカウント名などを記載しておくことではないでしょうか。
(2)
上記(1)は個人を知ってもらう個人の発信活動ですが、実際におぜぜになる(?)作品購入への認知としてはLINEマンガ等々のメディアと編集部との関係性となるので作者個人ではいかんともしがたいところです。しかしこの「あなたの作品を何人に知らしめることができるのか」という力は、従来の雑誌部数を超えて見定めるポイントになるのかもしれません。
[m%の増加について]
(3)
この数字について確たることが分かりませんが、恐らく0.1~9%の間の勝負だと思います。(m%が十分に高いのであれば固定ファンへの転向が起こる。連載作品においては特に。)
しかしこのパーセンテージの中身を磨いていくことが、総体として固定ファンを増やすことであり商業マンガ家としての技術の研鑽になるのではないかと思います。
とはいったもののm%を構成することになる要素があまりに多く、整理されていません。列挙をしても網羅はできないのですが愚察としては
・絵の力
・題材の特異性
・キャラクターの力
・ストーリー構成力
・取材での洞察力
・セリフなどのネーム力
・装丁、デザイン
・総じて感性的な何か(便利な言い分!)
・付録やおまけ(ゲームで使えるコードなど)
といった内容があるのではないでしょうか。
概ね以上ですが、雑誌がよく売れていた頃に比べれば「作品発表の機会が増えたかわりに、Nもm%も作者さん個人で努力できる/しなければならない部分が非常に多い」と考えています。
一方で個人的な問題意識として、こういった課題を書店が肩代わりして果たせることの少なさよとも思います。
(終)
2017/09/28 語調を修正しました。