コミタン!質問箱 第5回回答

私のマンガはなぜ売れないのでしょうか?

お勤め先:マンガ家の方からのどストレートなご質問をありがとうございます。

書店員の目線とは少し離れますので、自店の立場を離れて「一雑誌読者」としての狭い了見から考えているところを申し上げたいと思います。
「マンガが売れる可能性」ということについて、大前提として「あなたのマンガを知らない人はそのマンガを買うことができない」ことから、私は下記のように少し乱暴にモデル化をして考えています。

あなたのマンガの売れ数
≒[(あなたのマンガを知っている人の人数=N) * m%] + あなたの固定ファン

逆説的ですが、固定ファンは「あなたの単行本が出たら買う人」として積み重ねてきた実績すなわち定数であるとします。
そうするとこのモデルには2つの変数が含まれることになります。
①あなたのマンガを知っている人の人数 = N
②あなたのマンガを知ってくれた人が何人買うか、である打率 = m

短期的にはNとmを増加すること、長期的には固定ファンを増加させていくことがあなたのマンガが売れるようになるための施策の出口です。

このモデルの乱暴なところは下記のように考えている部分です。
「あなたのマンガを認知している人の総和にたいして、その媒体がマンガ雑誌であろうとTwitterであろうとLINEマンガであろうとpixivであろうと固定m%しか購入者はいないという仮定」
と、エクスキューズしながらもこのモデルが現状機能しているように思われるのは下記の理由です。
「媒体によって施策を変えることで打率m%のメリハリを出すことは可能かもしれないが、現状それをやるに足るセグメントを媒体側が十分な数で確保・誘導できていないため単純にNを増加していく施策を取るほうがコストが低く効率がよさそう」
「そもそもあなたの作品は概ねある雑誌に載せることを前提に作られているので、セグメントに特化してm%を求める作品を作るということをやりにくい(というかマンガ雑誌が売れてないのでいまはNを増やしてくれる雑誌編集部が強いのでは)」

ではNとmの増加に何ができるのか、ということが回答となります。

[Nの増加について]
(1)
作者個人ができることは主にSNSでの発信になるかと思われます。主にTwitter、Pixiv、Tumblrあたりが発表場所になるでしょう。
特に昨今では1枚のイラストの流通性が高いため「ある流行りモノの作品の二次創作でグッときたイラストを描いている人がマンガも描いている」という認知は多いように思われます。
あえて目標とするならば1日1枚何かのイラストを発信し、そこにはきちんと署名やTwitterアカウント名などを記載しておくことではないでしょうか。

(2)
上記(1)は個人を知ってもらう個人の発信活動ですが、実際におぜぜになる(?)作品購入への認知としてはLINEマンガ等々のメディアと編集部との関係性となるので作者個人ではいかんともしがたいところです。しかしこの「あなたの作品を何人に知らしめることができるのか」という力は、従来の雑誌部数を超えて見定めるポイントになるのかもしれません。

[m%の増加について]
(3)
この数字について確たることが分かりませんが、恐らく0.1~9%の間の勝負だと思います。(m%が十分に高いのであれば固定ファンへの転向が起こる。連載作品においては特に。)
しかしこのパーセンテージの中身を磨いていくことが、総体として固定ファンを増やすことであり商業マンガ家としての技術の研鑽になるのではないかと思います。
とはいったもののm%を構成することになる要素があまりに多く、整理されていません。列挙をしても網羅はできないのですが愚察としては
・絵の力
・題材の特異性
・キャラクターの力
・ストーリー構成力
・取材での洞察力
・セリフなどのネーム力
・装丁、デザイン
・総じて感性的な何か(便利な言い分!)
・付録やおまけ(ゲームで使えるコードなど)
といった内容があるのではないでしょうか。

概ね以上ですが、雑誌がよく売れていた頃に比べれば「作品発表の機会が増えたかわりに、Nもm%も作者さん個人で努力できる/しなければならない部分が非常に多い」と考えています。
一方で個人的な問題意識として、こういった課題を書店が肩代わりして果たせることの少なさよとも思います。

(終)

2017/09/28 語調を修正しました。

コミタン!質問箱 第5回回答

週刊、隔週、月刊、隔月、季刊などの掲載誌の違いにより単行本の発刊ペースも作品ごとに異なりますが、それらをあまり考慮せずに発注数を決めている書店があるのではないかと思う時があります。何故か、と申しますと、週刊誌に連載中のある作品の一巻だけが同時発売の作品に比べて数十冊多く積み上げられていたのに、翌月以降も余り高さに変化がなく、その作品の二巻目からは入荷しなかったからです。その作品は連載中で十巻に達しそうですが、ネット上では途中の巻の品切れの報告がしばしばあります。質問したいのは、徐々に読者が増えていそうな作品の取り扱いを書店が再開する判断の目安についてです。また、休刊した雑誌から移籍した作品や休刊と前後して完結した作品で一巻目が発売されていない場合でも画一的に売れないと判断されて入荷を見合わせていそうで、そのような作品の書店員の受け止め方についても知りたいです。同様に、数年後に二巻が発売されるような作品でも、最初の一週間の売り上げだけで単純に続刊の売れ行きを予測するのは乱暴だと思うのですが、実態はどうなのでしょうか。

ご質問ありがとうございます。回答が遅くなってしまい申し訳ございません。

いただいた問題のスコープを3点に絞ります。
①「徐々に読者が増えていそうな作品の取り扱いを書店が再開する判断の目安について」
②「休刊した雑誌から移籍した作品や休刊と前後して完結した作品で一巻目が発売されていない場合でも画一的に売れないと判断されて入荷を見合わせていそうで、そのような作品の書店員の受け止め方についても知りたいです。」
③「数年後に二巻が発売されるような作品でも、最初の一週間の売り上げだけで単純に続刊の売れ行きを予測するのは乱暴だと思うのですが、実態はどうなのでしょうか。」

まずはいずれの問題におきましても、特に続刊作品の発売日入荷数については書店員の希望よりも原則販売実績が優先される、ということを前回の回答より察していただけますと幸いです。そのため観察できる現象としてある店頭に在庫がないということと、書店員がどのように作品/商品評価をしているかということは往々にして別のレイヤーの問題で発生していることがあります。

以上を一般論として私の考える範囲で下記ご回答いたします。


仮にその作品の1巻は入荷をすると決め、また実際に入荷をしたものと仮定して、「取扱いの再開」を検討するタイミングは以下の2点があります。
(1)品切れ時に追加発注を行うか否か
(2)販売実績は0冊となっているが最近面白いので新刊時の入荷数に数をつけてみる

(1)
その作品を売り切りとするか、それとも今後も継続的に探されるだろうと見込むか、あるいは継続的にオススメをしていきたいか、という発注時の判断を原則そのままなぞっております。
それ以外に判断に影響するものとして「思っていたよりも短い期間で/想定していた入荷数がなくなりそう」なときは、慎重な判断が問われますがやはり再入荷や追加注文へのアクションを取るでしょう。
しかしながら発注を行っても版元・取次品切れなどの事情で入手できない、という状況も多々ございます。

(2)
徐々に読者が増えている、という現象にも程度はありますが例えば発売日以外にも「重版」となれば読者の拡がりが明らかだと推測されますので取扱い再開を検討するかもしれません。
あるいはコミタン!の一覧チェック等で他店が有効な動向を教えてくれた場合に上記「売り切り」から「取扱い再開」に傾いて発注を行うことがあります。
キーポイントは「自分が知らない情報」にあるように思います。


「休刊誌に載っていただから」というレッテルで作品を評価することはありません。あくまで作品がお客様にとってどうか、という視点で判断を行います。
ただ「休刊あるある」としては、打ち切りなどの事情によって作品中で丁寧に描写されるべきことがそうなされなかったために、読者の方の期待を裏切るのではないか、という感想をもつ作品が発生することがやはりあります。


販売実績により適正数を割り出すことは、既刊作品の版元刷り部数や書店入荷数の判断にとって最も妥当な推測であろうと考えております。
ここで問題となるのは「最初の一週間だけで」という部分ですが、私は「続刊発売時までの期間で」の数字を推測のベースに置いております。
恐らく意志を持って入荷数を決めているコミック担当者は総てそのようにしているはずです。
その上で「このマンガは自分だけが着目した作品だから1巻は先行して売れたが、2巻は近隣店舗も売るだろうから控えめな数字にしよう」とか「1巻は飛び道具的に売れると見た作品だが、継続的に読みたい作品だろうか」などの判断を加えます。
発売最初の一週間と数字、ということでいえば続刊の売れ行きではなく重版判断の話、最近では連載継続の判断なのではないかと思います。

以上です。

コミタン!質問箱 第4回回答

コミックスの書籍扱いについての質問です。入荷次第、発売日より前に店頭に並ぶ場合や、版元によってはホームページ上の発売日が出庫日であったりするなど、読者にはその区別の意味が分かりません。業界再編の結果、レーベルごとに違いが生じ、同一商圏内でも店舗により入荷状況が異なります。同時発売のイラスト集だけが書籍扱いで、発売日には売り切れていたり、他の単行本と見た目の違いが無い作品もあり、混乱します。また掲載誌自体が雑誌ではなく書籍扱いで、その理由はバックナンバーを長期間店頭に置くためだそうですが、読者、書店、流通、版元それぞれのメリットやデメリット、その役割を解説して下さい。

ご質問ありがとうございます。
私見としてお答えすると、書籍扱いと雑誌扱いというスキームは読者・書店・流通・版元の四者にとってのメリット/デメリットの調整により発生したものではなく、かつて流通上の理由により生じて経路依存的に現状があるものだと捉えていますので役割のみ解説したいと思います。

2つの扱いにおける本質的な差とは「この本をどこにどれだけ配本するという判断をどこがするか」というところだと思います。

書籍扱いはその判断を原則出版社が行います。
雑誌扱いはその判断を原則取次が行います。

出版バブルと呼ばれていたような頃、数百万部が印刷された雑誌一冊一冊の配本についてゼロベースから積み上げ算をしていては週刊誌の定期発行は成り立たなかったでしょう。書店への送り込み数を販売実績やある程度の型にはめてしまう仕組みとして雑誌扱いという枠組みが必要だったのだろう、と推測をしています。当時はPOSなどなく雑誌にはスリップもないため、個店の売上数は「配本数-返本数」で把握しており、かなりの時間がかかっていただろうと思います。

雑誌コードのことを調べていたら近しい趣旨が記述されていました。
http://www.jpo.or.jp/magcode/history/index.html

以上は雑誌の話ですが、ではコミックスがなぜ「雑誌扱い(コミックス)」という形態をとることにしたのか、これも想像するところのみです。
コミックスの売上数が雑誌と比例しそうであること、続巻を前提とした周期性があるものであり配本を型にはめれること、一冊あたりの発行部数が大きかったこと、あたりが理由ではないでしょうか。
逆に書籍扱いを選択する理由としては、刊行物に特殊性があり配本を自社の営業で決定したいこと、雑誌コードを新規に取得できなかったこと(費用面?)が挙げられると思います。

また雑誌と書籍では正味が違う、ということもあるかと思いますがこれについては詳しくないところなので論じません。

ということで、ある作品やレーベルが雑誌扱いであるのか、書籍扱いであるのか、ということは読者・書店・版元、もっといえば作品に対するメリットとデメリット以前の問題で決定されている印象があります。

一方で雑誌扱いコミックスの初版単行本部数がこれだけ小さくなっている現状、またコミックに詳しい担当者が不在状態であるような書店が増えつつあるなか雑誌扱いというスキームは少々難しくなってきていると考えています。
これからの時代は1万部の本に対して、
・売れる店
・売ってくれる店
をどれだけ見つけて配本を約束し、販売のサポートをするのかが版元の考える営業になるでしょう。
また書店は
・売れる見込数
・自店に限らない売れる施策(大数的には自店で売れる施策でよい)
に対して正確な推測を持ち版元に伝えることが重要になるでしょう。

これらについて現状容易であるのが書籍扱いですので、以降の新規レーベルは大部分が書籍扱いを選択していくのでは、という予想をしています。
サイコミも書籍扱いですね。
https://cycomi.com/news/news_detail_48.php

コミタン!質問箱 第3回回答

数十年来、方々の書店でコミックを買っていますが、昔は新刊でも帯が無く、内容説明もカバーに載せられていないのが普通でした。その代わり、折り返し部分に同一レーベルの刊行状況が纏められていたり、新刊案内が挟み込まれていました。今でもそれを踏襲している単行本も存在しますが、単行本を通して作家名や作品名を知る機会が減ったように感じています。その間、店内の光景は、取次店の発売予定表や完全受注生産商品の申込書など、掲示物や配布物の種類や質に特段の変化があったわけでもなく、本の売り方が分からないと嘆く書店員には共感しかねます。頻繁に原画展を開いて編集部や作家宛の簡素なアンケートを実施する書店もあり、商品を売るだけではない実店舗の役割があると思うのですが、読者が気付かないところで販売手法が進化しているのであれば教えて下さい。

ご質問ありがとうございます。
「(書店の現場について)読者が気付かないところで販売手法が進化しているのであれば教えて下さい。」
という部分について私・三木の考える範囲でお答えします。
回答内容の前提として、私が現在の書店像を全体的に把握できていないためご質問者の方が想定する書店像とズレがあるかもしれないこと、また私がどこか単一の店舗について数年のスパンで具に観察をできているわけではない、ということをご容赦ください。

実書店の販売手法における総体としての進化はほぼ起きておらず、その進化に期待するのであれば相当な時間が必要となるはずです。

これは売り場を進化させるコミック担当者の被雇用状況や社内的立ち位置が大きい要因であると思われます。
・正規雇用扱いの人間が少なく勤続年数自体が短くなりがち
・担当ジャンル替えや店舗の異動が多い
・現場担当者のパート/アルバイト社員化に対して、教育と責任を付与できる経営体制不足
以上の理由で、コミック担当者に限らず書店員が売り場に進化をもたらす段階まで自身にも棚にも経験値を溜められていません。
先輩がそういう状態であれば新入社員に対してもそれ以上の技術的な継承は難しく、業界全体で見れば車輪の再発明をし続ける停滞状態にあると思います。


この記事を読んだ書店員で「本の売り方が分からない」と少しでも思う方は久禮亮太氏の著書『普通の本屋さんを続けるために』を読みましょう。これが経験値の土台になる一冊です。
一般販売はしていないので自店の店長に申し込んで恵贈本を取り寄せると良いです。

ウェブでも読むことができるようです。
http://www.asuka-g.co.jp/event/1603/007768.html

一方で以上のような諸問題を積極的に、または偶発的にクリアした環境によってを得た進化で輝いている店舗もあります。
しかしこれはその書店にとって他店に優位をつけている競争力でもあります。
またはその進化を敷衍し他店に押し広げる体制が担当者の上位機能にない、ということもあるでしょう。

お客様の目線でいえばそういった輝いている店舗をどのように探すか、いかに気づくか、となると手がかりは少なく、イケてるコミック担当者を探している私もまた困っているところです。

ご質問への回答としては「進化はない、これからも薄い」というところですが、場をお借りして書店員に向けて「進化の土台を作ろう、まずは久禮亮太氏の本を読もう」と発信したいと思います。

コミック担当者に向けては「その土台の上に一緒に城を作ろう」。
コミック担当者に絞った議論はこちらから少しずつ。


流通面では入荷速度短縮等の進化はあるんですが、これは読者の方に気づいてもらって意味のあることではなく、やはり売り場の利便性や楽しさについては担当者が工夫を持つところでしょう。