コミック担当者の新刊申込みベストアクション(仮)

便宜上「コミタン!質問箱」カテゴリに入れています。
先日のアンケートをもとに、コミック担当者の新刊申込みについて私がベストだと思う取り組み方を記事としてまとめました。

<新刊申込みとは>
毎月5日頃に取次会社から送られてくる「来月発売のコミックス一覧」に、入荷希望数量を記載して提出すること。別称として「一覧チェック」。
この一覧に目を通すことではじめて来月発売されるコミックスの殆どすべてを知ることができる。
締切はだいたい15日頃。約10日間で取り組む仕事となる。

希望したとてその数が実現するとは限らないが、売れる数を予想しておけば配本が割れてもスピーディな発注ができるのでここでは別論としない。

<新刊申込みでやること>
①1巻や巻数表記なし作品(以下”新作”)の調査
多くの書店員にとってここが新作との出会いの場。新作の売上をどのように最大化できるかを模索。

②続刊作品の入荷数調整
返本率を下げるのは頑張って販売した1巻に対して2巻、3巻の入荷数で冷静になること。ビッグタイトルについても同様。

③店舗規模・構成に応じた販売計画
売上予算と入荷総額の比較按分、新刊台の回転予測、フェアや特典物の計画をカレンダーレベルに落として検討。

<それぞれのためのアクション>
①調査
1巻作品なら巻数部分(“1″や”(1)”)を削ったワードでGoogle検索。いまはだいたいの作品で公式がWeb試し読みを用意してくれているのでその内容を読む。そして自店の客層に引き当てて売上数を予測する。
売上数の予測では、
A.大きく売り場を組めば伸ばせる
B.新刊台で目立たせる
C.評価不能なので一応入荷してみる
D.ほとんど売れない
の4視点で考えて数字に落とし込む。Dは0冊か1冊入荷。Cは1冊入荷~反応を見て即注文で対応できる量が目安。A,Bは店舗の規模によりけり。
とにかくCを減らすのがよい。

この時点では装丁がわからないのが難点だが、最近のウェブ作品はアイキャッチのバナーが装丁に近いことが多くアテにしてよいと思う。
版元からの販促封筒の中には新刊情報がふんだんに含まれているので、この調査の助けとして保存しておいたり覚えておいたりしよう。

しかし何よりコミタン!の新刊一覧チェック配信と星取表が大いに参考になるものと自負しているのでぜひご覧いただきたい。
(今後は申込み締切前までに表を公開できるよう取り組んでいくつもりです)

コミック担当者がマンガ雑誌を読むメリットはこの調査パートにかかっている。
雑誌で数多くのマンガにあたることで幅広い客層を想像できるようになり予測の精度を上げることができる。
また一覧チェック自体の速度が上がること、新連載時点など早くから版元にアプローチすることで何か特別な恩恵を引き出せることもある。

兎にも角にもこの調査こそが商品の仕入れに直結し、すなわち小売業であるコミック担当者の仕事の大部分を占めているといっても過言ではないだろう。

②調整
雑誌扱いは原則として実績配本が掟なので、続刊ものが前巻の実売数を大きく割るような配本になることはあまりない。あまり、ない。
したがって放っておいても「売り逃し」には繋がりにくいのだが、もし返本率を改善したいと思えば2巻の配本数を調整するところこそ力のいれどころになる。
理由は大きく2つで、第一に1巻を買ったお客様がその作品に満足して2巻も続けてお買上げいただけるかどうかの継続率はどうしても売り場では分からない。(はっきり1巻だけは売れる、と評価する作品もある)
第二は自店が周辺店に一歩先んじて1巻を売っていた場合、2巻発売時には作品の評判が広まっていて周辺店等にお客様が流れることがある。
このあたりの事情を総じて実績の8掛け程度の配本がくるが、場合によって7.5~5まで抑えることもあり非常に難しいポイントになる。

またビッグタイトルの入荷数も非常に予想がしにくい、というより大きく上ブレることがありこれが返本率や在庫ストッカーを大きく押し上げることがある。
「期待作なのでここで伸ばします!」という版元さんの意気込みにより新刊刷り部数が増え、取次入荷数が増え、したがって自店への入荷数も増える、ということがビッグタイトルでは発生しうる。

多くの店舗で、新刊申込みで配本満数をもぎ取るためには返本率を下げることが条件になっていると思う。
この調整作業は「売り逃し」というリスクも高めるが、1巻のより良い入荷やゆとりのある新刊台、ストッカーを作るためにはぜひ取り組むべきアクションだ。

③計画
この点については店舗の規模が大きく影響するので省略。
ここまでで入力した入荷数量は売上予算と大きく乖離していないか、フェア台がダブルブッキングになり本来の効果を損なうことになっていないか、イベントを行いたい場合いつどんな準備を行うか。
自分は申込みファイルからCSVファイルへの変換を経由して主要タイトルと入荷希望数をGoogleカレンダーにインポートしている(月120タイトルほどがカレンダー上に表示される)。


申込みのほかに実際に配本をもぎ取る「調達編」もあるが、様々な特例で構成されているので記事にはしないかも。

署名:m

コミタン!質問箱 第2回回答

一冊しか入荷しない十作品と十冊入荷した人気作、単価が同じであればどちらも完売すれば売り上げ額は同じですが、一方は棚差が多く、こまめに表紙を見せるなどの工夫をしている書店は少ないように思われます。新刊であれば帯に中身の絵柄が載せてあることが多く、客が手に取りさえすれば問題は無いのかもしれませんが、既刊では簡単な宣伝文句しか、中身に関する情報が無く、店員に声をかけてフィルムを破ってもらうのは気が引け、中々、書店で購入を即決するのは困難です。また、コミックは他の書籍とは異なり、それだけで分類の基準となり、男女別や雑誌別、出版社別など、どの店も基本的な棚の構成が同じで、探しやすい反面、足を向けない棚もあり、女性が少年向けのコーナーにいるのは頻繁に目撃しても、その逆はほとんど見たことがありません。売れている作品にしか興味を示さない読者が多いのかもしれませんが、書店は不人気作や既刊の在庫の販売について、どのような方針で売り上げを伸ばす取り組みをしているのでしょうか。

ご質問ありがとうございます。
「書店は不人気作や既刊の在庫の販売について、どのような方針で売り上げを伸ばす取り組みをしているのでしょうか」という部分に私・三木の考える範囲でお答えします。

まず「不人気作」という存在に「自店で」という軸を加えると、大雑把に下記のような場合分けができます。
1.自店で人気作で世の中でも人気作
2.自店で人気作で世の中では不人気作
3.自店で不人気作で世の中では人気作
4.自店で不人気作で世の中でも人気作

ここで大雑把と書いたのは自店と世の中の間でタイムラグが発生することが多いからです。
※自店で人気作だが世の中ではまだ不人気作、やがて人気作へ というパタン。またはその逆というどちらのパタンも多く見られます。

さてこの中で「不人気作の販売/売り伸ばし」という言葉に関係する2,3,4について検討をします。
2.これが店舗の個性を作るものであり、今後マンガが好きなお客様に店舗に足を運んでいただくために最も注力するべきだと考えるポイントです。
在庫を幅広く揃えるのみだとやがてAmazonないし電子媒体に必ず負けます。というより現状『氷上のクラウン』2巻が電子版しか出ていない時点で我々は負けています。悔しい。
月1,000点の新刊、300点ほどの1巻や単巻から「素晴らしいタイトルを競合店よりいち早く」仕掛けることがコミック担当の腕です。
そのためにコミタン!チームが取り組むような来月の新刊チェックをする必要があるのです。

3.これもまた店舗の個性の一端です。
自店での不人気は売上の冊数から分かります。世の中での人気調査については重版情報や他書店員の発言・展開等にアンテナを張ります。
もし自店が作品の真価や作品が持つ潜在的な客層に気づいていなかったのであれば改めて作品の仕掛けを検討する必要があるでしょう。
しかし検討してなお客層にあわないと納得して手を入れていない作品もあります。
余計だと思われる選択肢を小さくしてお客様のサーチコストを下げるのも小売業の1つの役割です。

4.不幸にしてこういう作品も少なからず見られるのも現状です。

ご質問である「不人気作の売り伸ばしへの取り組み」という点では3.が回答となります。
コミタン!は2.が1.になるような道を作る、またはタイムラグが少しでも解消されることを目標にする試みです。

さて次に「既刊の在庫の販売/売り伸ばし」についてです。
既刊の在庫というものには概ね次の3パタンがあります。
1.新刊台落ち
2.常時在庫
3.スポット商品(仮)

1.レーベルまたは出版社ごとの販売日が毎月◯日と設定されていることが多く、そのため新刊台に作品が残ることができるのは長くて1ヶ月がルーチンとなっています。その新刊台から落ちた作品が既刊棚か棚前にいきます。 まだギリギリ探されるタイトル。
2.その店舗で長く売れ続けている作品群です。いわゆる名作またはその候補である作品、または店舗や地域にとっての名作とも言える重要な作品群です。
3.映像化等々のフェアで展開しているもの。

自店のことは後述するとして「既刊在庫の売り伸ばし」という点でいえば、1.や3.については新刊台の延長やある程度受動的な需要であるとしても、2.の売り伸ばしは十分お客様に提案できるものと考えます。
昨今の書店にとって主流である出版社/レーベル/性別により作られた棚のつまらなさは、この2つの需要の区別なさによるのではないかと思います。
やや願望もありますが、気の利いたコミック担当であれば既刊棚の隅々にいたるまで何らかの理由で商品を置いているものです。(しかしそれは10割がた主張されていない)
ただそれが1.によるのか2.によるのかが分からない。例えば2.であれば「うちの定番です」といった簡単なPOPで主張をしてお客様に伝えれば十分に面白いし、そのPOPを探して他の棚に目を向けるきっかけにはなるのではないかと思います。
私が他の店舗にいくときは新刊台同様既刊棚をよく見ます。他書店員の作る既刊棚における客層の類推もこれはこれで楽しく、また勉強になるものです。
・男女それぞれに向けたタイトルが入り交じるゼノンコミックスをどこに置いているか
・ビッグコミックシリーズの既刊バランスはどの年齢に寄せているか
・ハーレクイン、TLタイトルの扱いはどうか
・フィールコミックスのB6,A5を区別するか それは什器の都合だけか
・判型がバラバラでレーベル棚が現状ないトーチコミックスをどう扱うか
・BEAM COMIXに属しているハルタのコミックスをどう扱っているか
などなど挙げればキリがありません。はじめて行ったお店の『ONE PIECE』入荷数あてゲームには自信があります。

さて自店舗の既刊の話でいえば、推したい新刊と既刊をできるだけ近い場所に置くようにしています。
この作り方の利点(楽しさ)は3つあります。
・お客様にとっての既知のもので棚のもつ雰囲気や客層を区切ることが、お客様との大きな対話になるだろう
・お客様が初めてであったものがその人にとっては全て新刊だと言えるならば、お客様に演出できる出会いの数を月1,000点よりもっと増やせる
・単純にレベルの高い作品を扱いやすい

この作りが可能な前提として、まず自店がたった1,200冊程度の在庫量でありお客様が棚全体を一旦は視野に収めきれるということ、そして新刊の入荷量・幅が少なくハンドリングを簡単にする必要が薄いということはありますが。

いろんな店舗で、小さなゾーンでもかまわないので、こういった棚によるコミック担当者とお客様との対話をもっと見てみたいものです。

コミタン!質問箱 第1回回答

漫画雑誌の発行部数が激減している中で、既存の雑誌のアンケートでは把握されない、単行本のみしか購入していない読者のニーズや好みを、書店や出版社はどのように推測して、品揃えや販促活動、連載作品の選定を行っているのか疑問です。特に、処女作や雑誌を渡り歩いて打ち切りを連発する若手の作品が売れ残っているのを見かける度に、買ってでも揃えたい作品と中々、出会えない事に、そして、出会えたとしても二巻すら発売されない事に、憤りと無力感を覚えます。一読者が応援したくても、続巻が電子版のみでは、書店で新人の作品を購入するのを躊躇してしまい、市場はますます縮小して、結果的に誰も得をしないでしょう。書店と取次ぎと出版社の営業部と編集部の連携と意思疎通に首を傾げている状況ですので、書店の立場をお聞かせ下さい。

企画初となるご質問をいただきありがとうございます。私も一読者としては売れたら2巻刊行というやり方には少なからず切なさを感じます。

さて、ご質問のエッセンスである「単行本のみしか購入していない読者のニーズや好みを、書店や出版社はどのように推測して、品揃えや販促活動、連載作品の選定を行っているのか疑問」という部分についてです。
私個人として回答できる部分を「コミック担当書店員は単行本のみしか購入していない読者のニーズや好みをどのように推測しているのか」と切り分けてお答えします。

まず結論をまとめると
(1)目立った売れ行きを示しているタイトルから、読者のニーズを満たしたであろう「作品の持ち味」を推測する
(2)持ち味を絞り込んだ併売などの販売施策を行い、ニーズの存在を確認する
としています。

月に1,000冊弱の単行本が発売されるなか、自店で目立った売れ方をしているいくつかの作品があります。
単純な絶対数で上位に属しているタイトル、またはそのレーベル/ジャンルから刊行中の他作品に比較してよく売れているタイトルです。
それらの作品が満たした読者のニーズが何であるかを考えるということは、すなわち読者が惹かれた「作品の持ち味」を探ることだと考えています。

この持ち味の切り分けには大いに書店員の個性が出るところです。
作品が属するジャンルとして掴んだり、読んだときに得た大まかな感想・感情であったり、絵柄、作品構成の面白さ、土台になっている作者の知識、扱っている時代・・・色々な視点があるでしょう。
できるだけ多様で抽象的かつ解像度の高い視線を持ち、そして売り場で取捨選択することが書店担当者の腕であるように思います。

私が持ち味の読み取りをするときには、
・絵柄
・キャラクター
・ストーリー/事件
・作品背景にある知識量
・作者の文脈
の5点のうちどこかに手を付けます。

弊店でよく売れている『魔法使いの嫁』(ヤマザキコレ/マッグガーデン)を例に取って考えると、この作品の持ち味は「包容力が高い人外の存在との交流」(キャラクター)「女の子が他者との繋がりを回復する」(ストーリー)「ファンタジーモチーフの見事な援用」(知識量)であると捉えています。
月1,000点の新刊の中からこれらのうちいずれかの持ち味に近いものを有する作品があれば、それを『魔法使いの嫁』の近隣におく・言葉で伝えるなどの施策を行いその反応からニーズを確認していきます。
近刊である『とんがり帽子のアトリエ』(白浜鴎/講談社)では「ファンタジーモチーフの見事な援用」を主な共通点として『魔法使いの嫁』と併売し、その結果からすると恐らくこういったニーズがあるのではないか、と考えています。

版元さん、取次さんが持つPOSデータの分析からもこれらの持ち味によるリンケージは得られるだろうと思いますが、「なかったニーズ」や「小さいニーズ」の発見は書店の方が得意とするところでしょう。

…といったことを版元さんや取次さんと書店が密に、具にやり取りしているのかというと、恐らく全体ではそんなことはないだろう、推測されるのが現状です。
書店員の商品知識の低下、連載開始から商品化までのタイムラグへの不安、販売の再現性のなさ、流通上の問題など大いに推測が交じるところですのでここでは控えたいと思います。

一方でコミタン!チームでは数年前から数社の版元さんと新作に関するアンケートを定期的に行い、作品の持ち味やそのアピール方法に関する議論に取り組んでいます。
その結果が作品の形でお手元に届けば良いのですが。

コミタン!質問箱の実験

自分の考えの整理と知識の外部化、新しい気づきを求めて新しい試みをはじめました。

コミタン!ブログ部mytが皆様からのコミックに関するご質問に、書店員として考えた範囲内でお答えします。
お寄せいただいたご質問への回答は、原則週に1回ブログ記事上にて行います。
その際、質問者のお名前は記載いたしません。
公開することで大きく公益性を損なうと判断する問題、また私の立場では回答が出来かねる質問、イタズラと思しきものについてはその旨記載またはメールでご返答したいと思います。

コミタン!質問箱