漫画雑誌の発行部数が激減している中で、既存の雑誌のアンケートでは把握されない、単行本のみしか購入していない読者のニーズや好みを、書店や出版社はどのように推測して、品揃えや販促活動、連載作品の選定を行っているのか疑問です。特に、処女作や雑誌を渡り歩いて打ち切りを連発する若手の作品が売れ残っているのを見かける度に、買ってでも揃えたい作品と中々、出会えない事に、そして、出会えたとしても二巻すら発売されない事に、憤りと無力感を覚えます。一読者が応援したくても、続巻が電子版のみでは、書店で新人の作品を購入するのを躊躇してしまい、市場はますます縮小して、結果的に誰も得をしないでしょう。書店と取次ぎと出版社の営業部と編集部の連携と意思疎通に首を傾げている状況ですので、書店の立場をお聞かせ下さい。
企画初となるご質問をいただきありがとうございます。私も一読者としては売れたら2巻刊行というやり方には少なからず切なさを感じます。
さて、ご質問のエッセンスである「単行本のみしか購入していない読者のニーズや好みを、書店や出版社はどのように推測して、品揃えや販促活動、連載作品の選定を行っているのか疑問」という部分についてです。
私個人として回答できる部分を「コミック担当書店員は単行本のみしか購入していない読者のニーズや好みをどのように推測しているのか」と切り分けてお答えします。
まず結論をまとめると
(1)目立った売れ行きを示しているタイトルから、読者のニーズを満たしたであろう「作品の持ち味」を推測する
(2)持ち味を絞り込んだ併売などの販売施策を行い、ニーズの存在を確認する
としています。
月に1,000冊弱の単行本が発売されるなか、自店で目立った売れ方をしているいくつかの作品があります。
単純な絶対数で上位に属しているタイトル、またはそのレーベル/ジャンルから刊行中の他作品に比較してよく売れているタイトルです。
それらの作品が満たした読者のニーズが何であるかを考えるということは、すなわち読者が惹かれた「作品の持ち味」を探ることだと考えています。
この持ち味の切り分けには大いに書店員の個性が出るところです。
作品が属するジャンルとして掴んだり、読んだときに得た大まかな感想・感情であったり、絵柄、作品構成の面白さ、土台になっている作者の知識、扱っている時代・・・色々な視点があるでしょう。
できるだけ多様で抽象的かつ解像度の高い視線を持ち、そして売り場で取捨選択することが書店担当者の腕であるように思います。
私が持ち味の読み取りをするときには、
・絵柄
・キャラクター
・ストーリー/事件
・作品背景にある知識量
・作者の文脈
の5点のうちどこかに手を付けます。
弊店でよく売れている『魔法使いの嫁』(ヤマザキコレ/マッグガーデン)を例に取って考えると、この作品の持ち味は「包容力が高い人外の存在との交流」(キャラクター)「女の子が他者との繋がりを回復する」(ストーリー)「ファンタジーモチーフの見事な援用」(知識量)であると捉えています。
月1,000点の新刊の中からこれらのうちいずれかの持ち味に近いものを有する作品があれば、それを『魔法使いの嫁』の近隣におく・言葉で伝えるなどの施策を行いその反応からニーズを確認していきます。
近刊である『とんがり帽子のアトリエ』(白浜鴎/講談社)では「ファンタジーモチーフの見事な援用」を主な共通点として『魔法使いの嫁』と併売し、その結果からすると恐らくこういったニーズがあるのではないか、と考えています。
版元さん、取次さんが持つPOSデータの分析からもこれらの持ち味によるリンケージは得られるだろうと思いますが、「なかったニーズ」や「小さいニーズ」の発見は書店の方が得意とするところでしょう。
…といったことを版元さんや取次さんと書店が密に、具にやり取りしているのかというと、恐らく全体ではそんなことはないだろう、推測されるのが現状です。
書店員の商品知識の低下、連載開始から商品化までのタイムラグへの不安、販売の再現性のなさ、流通上の問題など大いに推測が交じるところですのでここでは控えたいと思います。
一方でコミタン!チームでは数年前から数社の版元さんと新作に関するアンケートを定期的に行い、作品の持ち味やそのアピール方法に関する議論に取り組んでいます。
その結果が作品の形でお手元に届けば良いのですが。