コミタン!質問箱 第2回回答

一冊しか入荷しない十作品と十冊入荷した人気作、単価が同じであればどちらも完売すれば売り上げ額は同じですが、一方は棚差が多く、こまめに表紙を見せるなどの工夫をしている書店は少ないように思われます。新刊であれば帯に中身の絵柄が載せてあることが多く、客が手に取りさえすれば問題は無いのかもしれませんが、既刊では簡単な宣伝文句しか、中身に関する情報が無く、店員に声をかけてフィルムを破ってもらうのは気が引け、中々、書店で購入を即決するのは困難です。また、コミックは他の書籍とは異なり、それだけで分類の基準となり、男女別や雑誌別、出版社別など、どの店も基本的な棚の構成が同じで、探しやすい反面、足を向けない棚もあり、女性が少年向けのコーナーにいるのは頻繁に目撃しても、その逆はほとんど見たことがありません。売れている作品にしか興味を示さない読者が多いのかもしれませんが、書店は不人気作や既刊の在庫の販売について、どのような方針で売り上げを伸ばす取り組みをしているのでしょうか。

ご質問ありがとうございます。
「書店は不人気作や既刊の在庫の販売について、どのような方針で売り上げを伸ばす取り組みをしているのでしょうか」という部分に私・三木の考える範囲でお答えします。

まず「不人気作」という存在に「自店で」という軸を加えると、大雑把に下記のような場合分けができます。
1.自店で人気作で世の中でも人気作
2.自店で人気作で世の中では不人気作
3.自店で不人気作で世の中では人気作
4.自店で不人気作で世の中でも人気作

ここで大雑把と書いたのは自店と世の中の間でタイムラグが発生することが多いからです。
※自店で人気作だが世の中ではまだ不人気作、やがて人気作へ というパタン。またはその逆というどちらのパタンも多く見られます。

さてこの中で「不人気作の販売/売り伸ばし」という言葉に関係する2,3,4について検討をします。
2.これが店舗の個性を作るものであり、今後マンガが好きなお客様に店舗に足を運んでいただくために最も注力するべきだと考えるポイントです。
在庫を幅広く揃えるのみだとやがてAmazonないし電子媒体に必ず負けます。というより現状『氷上のクラウン』2巻が電子版しか出ていない時点で我々は負けています。悔しい。
月1,000点の新刊、300点ほどの1巻や単巻から「素晴らしいタイトルを競合店よりいち早く」仕掛けることがコミック担当の腕です。
そのためにコミタン!チームが取り組むような来月の新刊チェックをする必要があるのです。

3.これもまた店舗の個性の一端です。
自店での不人気は売上の冊数から分かります。世の中での人気調査については重版情報や他書店員の発言・展開等にアンテナを張ります。
もし自店が作品の真価や作品が持つ潜在的な客層に気づいていなかったのであれば改めて作品の仕掛けを検討する必要があるでしょう。
しかし検討してなお客層にあわないと納得して手を入れていない作品もあります。
余計だと思われる選択肢を小さくしてお客様のサーチコストを下げるのも小売業の1つの役割です。

4.不幸にしてこういう作品も少なからず見られるのも現状です。

ご質問である「不人気作の売り伸ばしへの取り組み」という点では3.が回答となります。
コミタン!は2.が1.になるような道を作る、またはタイムラグが少しでも解消されることを目標にする試みです。

さて次に「既刊の在庫の販売/売り伸ばし」についてです。
既刊の在庫というものには概ね次の3パタンがあります。
1.新刊台落ち
2.常時在庫
3.スポット商品(仮)

1.レーベルまたは出版社ごとの販売日が毎月◯日と設定されていることが多く、そのため新刊台に作品が残ることができるのは長くて1ヶ月がルーチンとなっています。その新刊台から落ちた作品が既刊棚か棚前にいきます。 まだギリギリ探されるタイトル。
2.その店舗で長く売れ続けている作品群です。いわゆる名作またはその候補である作品、または店舗や地域にとっての名作とも言える重要な作品群です。
3.映像化等々のフェアで展開しているもの。

自店のことは後述するとして「既刊在庫の売り伸ばし」という点でいえば、1.や3.については新刊台の延長やある程度受動的な需要であるとしても、2.の売り伸ばしは十分お客様に提案できるものと考えます。
昨今の書店にとって主流である出版社/レーベル/性別により作られた棚のつまらなさは、この2つの需要の区別なさによるのではないかと思います。
やや願望もありますが、気の利いたコミック担当であれば既刊棚の隅々にいたるまで何らかの理由で商品を置いているものです。(しかしそれは10割がた主張されていない)
ただそれが1.によるのか2.によるのかが分からない。例えば2.であれば「うちの定番です」といった簡単なPOPで主張をしてお客様に伝えれば十分に面白いし、そのPOPを探して他の棚に目を向けるきっかけにはなるのではないかと思います。
私が他の店舗にいくときは新刊台同様既刊棚をよく見ます。他書店員の作る既刊棚における客層の類推もこれはこれで楽しく、また勉強になるものです。
・男女それぞれに向けたタイトルが入り交じるゼノンコミックスをどこに置いているか
・ビッグコミックシリーズの既刊バランスはどの年齢に寄せているか
・ハーレクイン、TLタイトルの扱いはどうか
・フィールコミックスのB6,A5を区別するか それは什器の都合だけか
・判型がバラバラでレーベル棚が現状ないトーチコミックスをどう扱うか
・BEAM COMIXに属しているハルタのコミックスをどう扱っているか
などなど挙げればキリがありません。はじめて行ったお店の『ONE PIECE』入荷数あてゲームには自信があります。

さて自店舗の既刊の話でいえば、推したい新刊と既刊をできるだけ近い場所に置くようにしています。
この作り方の利点(楽しさ)は3つあります。
・お客様にとっての既知のもので棚のもつ雰囲気や客層を区切ることが、お客様との大きな対話になるだろう
・お客様が初めてであったものがその人にとっては全て新刊だと言えるならば、お客様に演出できる出会いの数を月1,000点よりもっと増やせる
・単純にレベルの高い作品を扱いやすい

この作りが可能な前提として、まず自店がたった1,200冊程度の在庫量でありお客様が棚全体を一旦は視野に収めきれるということ、そして新刊の入荷量・幅が少なくハンドリングを簡単にする必要が薄いということはありますが。

いろんな店舗で、小さなゾーンでもかまわないので、こういった棚によるコミック担当者とお客様との対話をもっと見てみたいものです。

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