まんきき34号『ユグドラシルバー』 からあげたろう先生インタビュー

「麗しき永遠の花の都」。そう謳われたのも遥か昔の夢の跡。今では全てが凍てつく厳冬の国。そのゴミ溜め(レベルゼロ)で、かつて勇名を馳せた老騎士・ガル=ガルゥは、栄華を極めた国の衰退と同様に落ちぶれ残飯を食らう日々。己の”出番”など、もう終わったと思っていた。天より落ちてきた少女と出会うまでは──。

困難に立ち向かうための勇気が湧いてくる。
家族と引き裂かれた悲しさも世界が敵であるかのような理不尽も、
ガルとナルのふたりの正しい歩みを止める理由にはならない。
そんな真っ直ぐさが読者の胸を打つ『ユグドラシルバー』が本日発売。
ファンタジー作品としてこれだけの説得力がある背景にある考え、影響を受けた偉大な作品たち、そして先生自身が作品づくりで大切にしていること。
からあげたろう先生に、コミタン!チームでインタビューをさせていただきました。作品の試し読みはこちら!

――― この度は新作『ユグドラシルバー』の単行本発売、おめでとうございます。作中で描かれる世界の風景や服装から「ファンタジー作品が好きな人が取り組んでいる作品だ」と感じて嬉しくなりました。この作品が生まれたきっかけはどんなことだったのでしょうか。
子どもの頃から海外の小説やゲーム、映画等のファンタジー作品が大好きでした。ただ、本格的なファンタジーはいちから世界を構築していくものなので、好きだけど自分で描くのは大変だぞという思いがありました。編集さんとの新作打ち合わせの際にそういう事を話題にしたら編集さんが「好きなものを描いてください。それでいってみましょう」と言ってくれまして「えっいいの?」と今に至る感じです。こんなチャンス、後にはないかもなと思い頑張って描いています。最初はエルフの女の子の話を考えていたのですが、いつのまにかおじいさんが主人公になってしまいました。
――― 先生ご自身のファンタジー作品との出会い、そしてその後の遍歴はどういったものなんでしょうか? (大人になってすごいと感じた作品や、幼心に怖いと感じた作品が特に気になっています!)
子供の頃は『指輪物語』(J・R・R・トルーキン/評論社)『ナルニア国物語』(C・S・ルイス/岩波書店)『はてしない物語』(ミヒャエル・エンデ/岩波書店) などの海外児童文学やファンタジー小説にハマっていました。本の冒頭に物語世界の地図が書かれていて、読みながら地図を辿ってワクワクしたのを覚えています。映画もその頃は『ウィロー』(ロン・ハワード/1988年公開)『ラビリンス』(ジム・ヘンソン/1986年公開) など子ども向けファンタジー映画がたくさんあったのでよく観ていました。怖かったのは『ソーサリー』(スティーブ・ジャクソン/創土社) というゲームブックで、ひとつ選択を間違えると問答無用で首をはねられたりするのがすごく怖かった記憶があります。
あと、ファミコン全盛期だったので、ドラクエ、ファイナルファンタジー等のRPGゲームなどに親しんできました。近年では『ICO』『ワンダと巨像』(デザイナーとして上田文人/いずれもPS2)が好きです。最近では『ゲーム・オブ・スローンズ』(ジョージ・R・R・マーティン原作/HBO配信) などを観ています。クセのある人間のオンパレードで、怖いけどついつい観てしまっています。
漫画作品では『進撃の巨人』(諫山創/講談社)『ベルセルク』(三浦建太郎/白泉社)などのダークファンタジーの世界観に一人の人間がこれを考え出せるのはものすごい…と尊敬しています。
――― 『ユグドラシルバー』の世界でも地図や王都の構造などは設定がおありなのでしょうか
設定も一応ふんわりとは考えてはいるのですが、建物の構造というよりは、各層にどんな人間が住んでいるか…みたいな内容の方が多くて、まだビジュアルとかはカッチリとは決めてないんです。多分上に行けば行くほど暖かくなると思うので、着ている服も変わってくるだろうな…とかそんなこと考えてます。

――― スティーブ=ジャクソンの『ソーサリー』! 思わず懐かしんでしまいました。二巻の「城塞都市カーレ」が難しかった記憶があります。ゲームブックやTRPGは結構プレイされていたのでしょうか?
僕も「城塞都市カーレ」の一歩間違えば即死するヒリヒリした世界観が一番記憶に残っていて、この作品も多分影響を受けていると思います。TRPGにはまったく触れたことはないのですが、もしハマっていたら創作するのにめちゃくちゃ役に立っただろうなと思いますね。
――― 『ソーサリー』というと日本のイラストとは違った絵柄の挿絵が印象的でしたが、作画的に影響を受けている部分もあるのでしょうか?(と言いますのは先生の絵柄からあまりスクリーントーンを使わない印象があり、ひょっとして海外イラストの影響も強いのかな?と思いました)
多分あると思います。海外の小説『指輪物語』の挿絵とかあとは『ムーミン』の作者のトーベ・ヤンソンさんのイラストが子供の頃からすごく好きでした。ちょっと版画みたいなペンタッチで、目を惹きたい所を白や黒でパッキリ抜いたり、とかそういうタッチがすごく好きで、白と黒だけで画面が成り立つような感じを漫画にも取り入れられたらいいな…と思っています。
――― 近頃マンガ市場で多く見られる「ファンタジー的な作品」では、作中の世界設定や強さのステータス化などに共通する部分が多く見られるなと感じています。一方先生の『わたしのカイロス』や『ユグドラシルバー』にはそれらとは違う、「純ファンタジー」と私たちが感じるような骨太さを読者として感じています。こういった認識がどのような場所から来ているのか、先生の方で工夫されている点はあるのでしょうか。
『わたしのカイロス』は星々を巡る話だったので、砂漠の国や水の国、火山の国など地形や気候が違えば人の暮らしや服装、住んでいる人の考え方も変わってくるはずだろうなと思いながら描いていた気がします。同じような感覚で、『ユグドラシルバー』でも一年中雪が降り続ける極寒の地だと人はどんな風になるのだろう?みたいなことを想像しながら描いています。
――― いちから世界を構築するのは本当に難しいことだと感じます。今作でこの世界構築がハマったというか手応えを感じたタイミングやアイデアはどんなところだったのでしょうか。
元々は「雪に閉ざされた世界を元に戻す」みたいな話を考えていたのですが、「城の頂上だけは春のまま」というアイデアを思いついたときは、上へ上へ登っていく視覚的な方向性もあるからこれはいいかも…?と思いました。
――― 先生が思うファンタジーの「お約束」的シーンはありますか?
ファンタジーのお約束…改めて聞かれますとなんだか難しいですね。王国の入り口に、ものすごく巨大な石像が対で立っているシーンなんか見るとこれこれこういうの!って思いますね。
――― 真っ直ぐな主人公に対して、悪役が本当に嫌な、あるいは不気味な存在として描かれています。主人公と悪役のキャラクターづくりで意識している点はどんなところなのでしょうか。
真っ直ぐすぎる感情はベクトルが違うだけで善にも悪にもなりえるなと思っています。愛のためには人を殺すことも辞さない、みたいな。主人公サイドと悪役サイドで違うことといえば、他人のために身を尽くす事ができるか、自分の都合しか考えないか、の違いかなと思っています。
――― 名脇役としてカッコいいおじさん、いやおじいさんが出てくることも先生の作品の特徴だと感じています。ここにはこだわりが・・・?
漫画よりも映画の影響だと思うのですが、『インディ・ジョーンズ』(ジョージ・ルーカス/シリーズ多数) の父親役のショーン・コネリーとか、『ロード・オブ・ザ・リング』(ピーター・ジャクソン/2001年公開) のガンダルフ役のイアン・マッケランとかちょっと肩の力の抜けたユーモラスなおじさんやおじいさんって、かっこいいときとのギャップがすごくいいんですよね。逆にかっこいい青年ってどう描くの…?って悩んだりします。
――― 確かにあまり青年らしい青年、特に男性はあまり見かけないですね。いわゆる青年期というものにどんなイメージをお持ちなのでしょうか。
僕自身も10代の頃とかはそうだったのですが、「根拠のない自信で突き進んでいくことのできる人間」という感じです。そこが良いところでもあり、まぶしくてうらやましさもあり、馬鹿でもろいところも兼ね備えている時期な気がします。と、ここまで書いてそういう人間も一度描いてみたいなという気持ちにもなってきました。
――― 見開きで描かれるコマが非常に気持ちいい作品です。コマ割りやコマ内でのカメラの位置についてどんなことを意識されているのでしょうか。
ありがとうございます。コマ割りは未だに勉強中ですが、ページの中にひとつでも印象に残るコマがあればいいなと思いながら描いています。『ユグドラシルバー』の1話は編集さんに何ページになってもいいですよと言われたので、つい贅沢に見開きバンバン使っちゃいました。あとは顔アップのコマだらけにならないよう、できるだけ全身が入るような引いた画面のコマを入れるように気をつけています。
――― 今作から特に先生ご自身が気に入っているページやコマがありましたら教えてください。
第1話の中ではガルに腕が生える直前の、ナルが自分をかばってくれるガルに心を許し、ありがとうと花が咲き乱れる一連のシーンが気持ちよく描けたかなと思っています。

――― マンガを描く上で影響を受けた作品はありますか(マンガに限らず小説や作品論等も含めて)
一番影響を受けているのは映画だと思います。特に『スター・ウォーズ』(ジョージ・ルーカス)『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(ロバート・ゼメキス) などの80年代のハリウッド作品。あとはジブリ映画、特に『天空の城ラピュタ』(1986年公開) が大好きでボーイミーツガール物が好きなのもここから来ているのかもしれません。『ユグドラシルバー』でも、つい空から女の子を降らせちゃいました。
――― いま読者として熱を上げているマンガはありますか。
最近ですと『とんがり帽子のアトリエ』(白浜鴎/講談社) です。漫画表現ってここまで自由なのかと毎回興奮しながら読んでいます。あとは『メイドインアビス』(つくしあきひと/竹書房)『宝石の国』(市川春子/講談社) などは感情を掻きむしられるような展開に身悶えしながら読んでいます。『ゴールデンカムイ』(野田サトル/集英社) の登場キャラの強さ、爆笑してしまいます。
――― ガルとナル、小冊子表紙でも対象的な外見の二人をそれぞれ描くにあたって気をつかっていることはありますか?
「ガルはどっしりと、ナルは軽やかに」を基本にしているつもりです。ガルの毛皮は若干ゴワゴワに、ナルの毛皮はふわふわした感じにとか…ですかね。ガルは老人ですがあまり顔のシワで表現しないようにとか、ナルは髪型をあまり固定せずいつも風になびいてる感じに…とか、細かいとこですとそういうところを気にしながら描いている時がすごく楽しいです。
――― ガル=ガルゥという反復が珍しくとても耳馴染みの良いネーミングですが、何か由来のあるものなのでしょうか。
キャラの名前って妙に凝るよりも、音的に覚えてもらいやすい名前が一番いいんじゃないかなと思ってます。ガルは犬が牙を向いて吠える感じの「ガルガル」から取りました。ガルは大型犬のイメージです。繰り返しの感じは富野由悠季監督のアニメ作品の影響です。「キッチ・キッチン」とか聞いたら一発で憶えてしまえるネーミングセンスがすごいなと思っています。
――― 「好きなものを」と最初のGOサインをくださった編集さんですが、その後はどのような打合せをされているのでしょうか。
いろいろな編集さんがいますが、『ユグドラシルバー』の編集さんにはやりたいことをそのままやらせてもらえていると思います。その上で、少年漫画的にはどう盛り上がればいいかとかアドバイスをくれたり、あと「このナルのコマめっちゃ可愛く描いてもらえると僕が嬉しいです」とか言われています。
――― 前作『わたしのカイロス』との共通点として、主人公の手足の欠損がストーリー進行の鍵になっています。そのことがただのハンディになるのではなく、様々な角度からの強さが描かれる展開が好きなのですが、何か先生のこだわりがあるところなのでしょうか。
特に欠損表現自体が好きというわけではないのですが、というか欠損表現も「痛い痛い!」と思いながら描いてたりします。でも多分自分は「失ったものを取り戻す」という話が好きなんだろうなと思っています。もっと言えば「何かを失ったけれど、諦めず頑張るうちにそれよりもすごいものを手に入れた」話が好きなのかもしれません。
――― 先生がマンガを描きはじめたのはいつ頃だったのでしょうか
本格的に漫画を描き始めてからは10年くらいだと思います。最初は小学生くらいの時に姉に見せて面白がらせるためにノートの片隅に描いていた程度で、それからは大人になるまで全く描いていませんでした。2000年代くらいになってインターネットが気軽に見られるようになってきた頃に、個人サイトとか同人誌とかいうものがあると初めて知って素人でも漫画を描いていいんだ!と描き始めた感じです。
――― 小学生くらいの頃に印象的だったマンガは?
鳥山明先生の『ドラゴンボール』(集英社)です。子供心にも鳥山先生のなめらかな線や、白と黒のバランスに惚れ惚れしたのを覚えています。あとは桜玉吉先生の『しあわせのかたち』(エンターブレイン)という漫画が好きでした。女の子とディフォルメの可愛さはかなり影響を受けていると思います。
――― 今後の作品発表の媒体として紙とwebとの差を意識することはありますか?
結構あります。ページ数の必要な超大作みたいなのを描こうと思うとやっぱり紙媒体かなと思いますし、流れの早いwebで作品を描くときは軽く読めるコメディの方が向いてるのかなとか思います。作品更新したときの反応や感想の早さはやっぱりwebの方が早いなと思います。
――― 書店に足を運ばれることはありますか?
書店は好きなのでよく行きます。ネットだとやはり自分の好きなものしか目に入らないのでアンテナを広げるためや、装丁も大好きなのでいろんな本の表紙を眺めてるだけでも楽しいです。
――― この作品を描かれるにあたって大事にしている信念のようなものはありますか?
シンプルに、「前へ進む漫画」であることを忘れずに思い返しながら、描いていきたいなと思っています。
――― 最後になりますが、これから『ユグドラシルバー』に触れる読者の方に一言お願いいたします。
担当の編集さんとも「テンポよくガンガン進んでいく漫画にしたいですね」と話しています。ガルとナルと一緒に、王都をどんどん駆け上って行く感じで読んでいただけましたらうれしいです。
からあげたろう先生、ありがとうございました!
先生のイラスト表紙が目印のまんきき34号の頒布店はこちらで案内しています

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