「今回の作品は特に線を意識して作画をするようにしています」まんきき38号『転がる姉弟』森つぶみ先生インタビュー

『転がる姉弟』書影

父親の再婚で小学生の弟ができることになった女子高生の宇佐美みなと。 「とってもかわいい男の子だぞ」と言われ、期待を膨らませるが―――。 『月曜から金曜の男子高校生』の森つぶみがおくる、笑って泣ける、ほのぼのホームコメディ、開幕!

新しい家族と少しずつ近づいていく時間。
子供でもあり大人でもある時間。
暖かい描線で紡ぐ物語があなたの心をつかみます。

作品の試し読みはこちら!

――― なんといっても弟・光志郎の思いもよらない行動と姉・みなとが姉らしくなっていく姿が楽しい作品です。今作はどんなところから思いついたのでしょうか。
前作の『月曜から金曜の男子高校生』の連載が終わり、次回作用のネームとして「家庭環境の異なる小学生4人組の話」を描いていました。『転がる姉弟』にも出てくる小学生4人を主体とした話で、その話は光志郎が主人公ではなかったのですが、ネームを10話ほど描いたところ、だんだん光志郎のキャラが立ってきて、これは光志郎を主人公にした方が面白いのでは、となったところから今作ができました。
――― これまでの作品『月曜から金曜の男子高校生』や『たべざかりの山本さん!』を読んでも、お友達は4人組という印象があります。こだわりがあるのでしょうか。
こだわりというわけではないのですが、キャラクターバランスや会話の盛り上がりを考えていくといつも4人になってしまいます。
――― 4人組を構成するときは何かキャラ分担や個性のようなものをそれぞれに考えるのでしょうか。先生自身はどのポジションのセリフがすらすら浮かびますか?会話の自然な感じも作品の魅力です。
自然な会話をかきたいと思って台詞を書いているのでそういっていただけるとうれしいです。出来るだけ会話の広がりが出るようなキャラクターバランスを大切にして4人組を構成することと、現実にいそうな感じをだすことを特に意識します。4人組の良いところは一つのテーマにおいて、立場や性格の違う人物の4通りの意見を見せられるので、話に広がりを持たせやすいところです。漫才やコントのようにボケとツッコミを繰り返して会話が進むようイメージしています。浮かびやすいのはどちらかというとボケ側のポジションのセリフです。
――― キャラクターづくりは連載の開始前にしっかり決めて取り組むのでしょうか。連載を進めながらチューニングしていくところもありますか?
この作品のもとになった小学生4人の話があるのでなんとなくのイメージは決まっていましたが細かい設定などは話を進めながら固めていっている感じです。お話を描いているとキャラクターが思いもよらぬ行動をしたりして最初に思っていた設定と違う方向に面白く進むこともあるのでそのつど設定が決まっていくやり方が自分には合っているなと思います。
――― みなとのニットをはじめ、小学生ズの服もその人らしさが出ているというか、先生のこだわりを感じるポイントです。
細かいところまで見ていただいてありがとうございます。光志郎はパーカー、ロボ(斎藤)はフリースフルジップジャケット、水町はジャージ、久瀬はYシャツと分けてみました。どんなキャラクターなのか垣間見える感じになっていれば良いなと思います。光志郎のTシャツや、みなとの私服、毎回どんな感じにしようか楽しみながら描いています。
――― 先生の暖かい線も作品の魅力のひとつだと思います。ペンの種類など作画の環境について教えていただけないでしょうか。
今回の作品は特に線を意識して作画をするようにしているのでそう言っていただけてうれしいです。基本的に、つけペンとミリペンを使って原稿を書いています。ベタもアナログで塗っています。トーンやホワイト、細かい直しなどの仕上げ作業はデジタル(クリップスタジオペイント) で描いています。人物の線は、基本的に主線はGペン、細かい線は丸ペンで描いているのですが、光志郎だけは、顔の主線はミリペン、体の主線は使い古したカブラペンで描いています。柔らかい良い線が出るといいな…!と思いながら線を引いています。光志郎のキャラクターが馴染むように、今作から背景の線は定規を使わずフリーハンドでひくようにしました。背景は丸ペンを使用しています。デジタルでの仕上げ作業は苦手だったのですが、今作からiPad ProとApple pencilを使い始めてかなり楽になりました。もっともっと良い線が引けるように研究していきたいです。
――― 使い古したカブラペンは新しいものと比べてどういった違いがでるのでしょうか。筆圧をかけやすい・・・?
使い古したものはペン先が削れて丸まっているので太い線になりやすく、柔らかい線に仕上がる感じがして古いものを使っています。
――― もし可能であれば各ペンによる線を並べて見せていただけないでしょうか。画材を握ったことがない読者の方にとっても興味深い点だと思います!

まだまだ使いこなせてるとは言えないのですが、インクをつけてつけペンで描く作業は楽しいです。
――― みなと、弟・光志郎の外見はどのように決まったのでしょうか。みなとが光志郎をはじめて見た時の「すごいアホそうな子」という感想に笑ってしまいました。

光志郎は「お調子者でアホそうなやつ」というキャラクターをイメージした時に自然に浮かびました。ですが、最初はここまでデフォルメされたデザインではなかったです。ネームを描いていくうちに簡略化されていき、今の玉ねぎみたいな顔のシルエットになりました。意識したつもりはなかったのですが、赤塚不二夫先生の作品の影響があると思います。みなとのキャラクターデザインも悩まず自然に浮かびました。若い頃のショートカットの小泉今日子さんや、内田有紀さんが好きなのでその影響があるかもしれません。
――― 赤塚不二夫先生作品、ここから読んでみて欲しい!というオススメはありますか?
赤塚作品で言うと『もーれつア太郎』や『天才バカボン』が好きです。どちらもギャグ漫画なのですが、毎回ナンセンスなギャグがたくさん散りばめられた中にセンチメンタルなストーリーがあったり、考えさせられるストーリーがあったり自分が好きな要素がたくさん詰まっています。ニャロメの言うことがみんなに信じてもらえない回など、笑えるんだけれど胸がギュッとなる感じが、たまりません。赤塚作品はたくさんあるので『泣けるアカツカ』と言うセレクト作品集から読んでみるのをおすすめしたいです。タイトル通り、赤塚作品から”泣ける”回を収録した本なのですが有名タイトルから、マイナーで今では手に入らないタイトルのものまで収録されており、漫画好きの方は好きなんじゃないかな、と思います。笑いと悲しみが隣り合わせにあるおかしみを味わえます。『泣けるアカツカ』収録作品の中では『母ちゃんNO.1』『のらガキ』が好きです。
――― 先生が作品作りに影響を受けたと感じるマンガ、憧れているマンガはありますか?(またそれはどんな点でしょうか)
マンガで言うと『ONE PIECE』(尾田栄一郎/集英社)、『ぼのぼの』(いがらしみきお/竹書房)です。『ONE PIECE』からは「セリフのリズム」、『ぼのぼの』からは「話の着眼点」と「間」といった点で影響を受けています。それと赤塚不二夫先生の作品には全般的に影響を受けていると思います。また、マンガではないのですが、今回帯コメントをいただいた木皿泉先生の作品、ヨーロッパ企画(劇団)さんの作品の影響も強いです。憧れているマンガは、小田扉先生の作品全般です。発想と笑いのセンスが唯一無二だと思っています。
――― 担当編集さんとの打ち合わせではどんなことをお話されていますか?
連載の準備段階では主にシナリオの構造理論的な視点から指摘していただきました。最近では、まずこちらがかきたいものをかかせていただき、意見をもらうという形で作品づくりを進めています。担当さんは、漫画はもちろん、映画、本、演劇など多岐にわたって詳しいので、知識量とセンスにおいて信頼しています。また打ち合わせとは別にちょくちょくLINEでおすすめの作品(マンガ以外にも映画や小説、コントなども) を教えてくれたりすることも、作品づくりの参考になっています。
――― 担当編集さんからの言葉で印象深かったことはありますか?
言葉は若干違ったかもしれないのですが連載前、担当編集さんが「森つぶみ作品の本質は「寂しさ」かもしれないですね」といったようなことを言ってくださったことがあり、今までそのことを言及してくださる方はあまりいなかったのでうれしかったです。
――― いま読者として追いかけている連載作品があったら教えてください。
たくさんあるのですが、特に注目しているのは『横須賀こずえ』(小田扉/小学館)、『望郷太郎』(山田芳裕/講談社)です。
――― マンガを描きはじめたきっかけを覚えていらっしゃるでしょうか。
ものごころついたころからマンガが好きで、気づいたら描いていました!
――― 先生とマンガの出会いについて教えてください。
小さい頃見ていたアニメの原作の漫画を買ってもらったりしていました。『ドラえもん』や『ぼのぼの』などです。
――― 『転がる姉弟』1巻では毎話何かを食べているシーンがあって、しかもすごく美味しそうに描かれています。
毎話絶対に入れようと意識しているわけではないのですが、日常生活を描いていくと自然とたべるシーンが入ってくる感じです。逆に、何か物足りないとなったときに、たべるシーンを入れるとしっくりくることがあります。結果的に1巻では全話にたべるシーンが入ってますね(笑)。たべることが好きなのでたべもののシーンは描いていて楽しいです。むずかしいのですが、ちゃんと何のたべものかわかるように、生き生きとしたかんじに描けるようにと思いながら描いています。
――― 先生自身の好きな食べ物はなんですか?
なんでも好きなのですがハンバーグと牛乳寒天が好きです。第1話にもでてきますがお寿司も好きです。駄菓子も好きで、最近は「わさびのり太郎」が好きで作業中にたまに食べています。たまに「わさびのり太郎」がパリパリすぎることがあるのですが、そのときは少し残念です。やはり「わさびのり太郎」は少ししっとりして噛み応えがあるのが魅力だと思うので。お菓子では「チョコあ~んぱん」も好きです。たまに「チョコあ~んぱん」のぱん部分がパサパサのことがあるのですが、そのときは少し残念です。やはり「チョコあ~んぱん」のぱん部分はしっとりしているほうがおいしいので。ちなみに「チョコあ~んぱん」は袋タイプと箱タイプがあるのですが、箱タイプの方はパサパサになっていることがほとんどないので箱があるときは箱を選びます。
インタビュアー三木私物
インタビュアー三木私物
――― お菓子へのこだわり・・・!先生の作業お菓子遍歴を教えて下さい。その他にご褒美お菓子などもあるのでしょうか。
色々新しいものを食べてみるタイプというよりも同じものばかり食べているタイプで、「チョコあ~んぱん」は昔からよく食べています。作業中にたまに食べるのは、わさびのり太郎の他にはするめとかジャーキー系のかみごたえのあるしょっぱいもの、ラムネやポイフルなどのあまいものを食べたりします。ご褒美としては年に2、3回とかですがパフェを食べに行ったりします。
――― 最後になりますが、これから作品に触れる読者の方に一言お願いできればと思います!
みなとと光志郎、ふたりの日々を楽しんで読んでいただけたらうれしいです!
森つぶみ先生、ありがとうございました!
先生のイラスト表紙が目印のまんきき38号の頒布店はこちらで案内しています